日本映画
海の沈黙
※本稿にはネタバレを含みます。ご注意下さい。
ベタすぎるシナリオと変わりばえしない豪華キャスト…目新しさこそまったくないが演技とは演者の人間力だと知る作品
日本映画『海の沈黙』とは
倉本聰が描く至高の愛、至高の美
『前略おふくろ様』『北の国から』『やすらぎの郷』などの巨匠・倉本聰が長年構想し、「どうしても書いておきたかった」と語る渾身の物語がついに映画化。
人々の前から姿を消した天才画家が秘めてきた想い、美と芸術への執念、そして忘れられない過去が明らかになる時、至高の美と愛の全貌がキャンバスに描きだされる。
孤高の画家・津山竜次を本木雅弘氏が演じるほか、小泉今日子さん、中井貴一氏、石坂浩二氏、仲村トオル氏、清水美砂さんら豪華キャストが集結。
『沈まぬ太陽』や『Fukushima 50』の若松節朗氏がメガホンをとり、緊迫のドラマ、深遠な愛、痛切な人間模様をスクリーンに刻みつける。
撮影は多くの倉本作品の舞台になっている北海道でも行われ、小樽でのロケ撮影を敢行。
運河の美しい風景が重厚な物語を彩る。
人間にとって「美」とは何か?
私たちは人生の終わりに何を見つけるのか?
観客の心を揺さぶり続けてきた作家・倉本聰氏がついにたどり着いた集大成的作品が幕を開ける。
〈キャスト〉
萩原聖人 村田雄浩
〈スタッフ〉
原作・脚本:倉本聰
監督:若松節朗
製作:曵地克之
プロデューサー:佐藤龍春
アソシエイトプロデューサー:谷山一也 増子美和 中村和夫 牛田直美
音楽:住友紀人
絵画協力:高田啓介
企画協力:フラノ・クリエイティブ・シンジケート
製作会社:インナップ
劇場公開日:2024年11月22日(金)
製作年:2024年
製作国:日本
あらすじ
世紀の贋作事件の鍵は、若き日に消息を絶った天才画家と遠い昔の恋人世界的な画家、田村修三の展覧会で大事件が起きた。
展示作品のひとつが贋作だとわかったのだ。
連日、報道が加熱する中、北海道で全身に刺青の入った女の死体が発見される。
このふたつの事件の間に浮かび上がった男。
それは、かつて新進気鋭の天才画家と呼ばれるも、ある事件を機に人々の前から姿を消した津山竜次だった。
かつての竜次の恋人で、現在は田村の妻・安奈は北海道へ向かう。
もう会うことはないと思っていた竜次と安奈は小樽で再会を果たす。
しかし、病は竜次の身体を蝕んでいた。
残り少ない時間の中で彼は何を描くのか?
何を思うのか?
彼が秘めていた想いとは?
登場人物
着想を得た永仁の壺事件とは
永仁の壺事件
「永仁の壺事件」(1959年)と呼ばれる古陶器の真贋騒動。
「永仁2年」(1294年)の銘をもつ瓶子(へいし=口縁部が細くすぼまる比較的小型の壺)が鎌倉時代の古瀬戸の傑作であるとして、国の重要文化財に指定された。直後からこの瓶子には贋作の疑惑があり、2年後に重要文化財の指定が解除される。
この件は単なる指定のミスで終わらず、重要文化財の指定を推薦した文部技官が引責辞任するなど、美術史学や古美術業界、文化財保護行政を巻き込む事件へと発展することになる。
結論として、この壺は陶芸家の加藤唐九郎氏の現代の作、すなわち「贋作」であるとされたが、その後も謎は残されている。
本作について「60年前に仕込んだ子どもがやっと生まれてくれた」と倉本氏は語る。
鎌倉期の制作とされていた壺が明治生まれの陶芸家の贋作であると判明し、重要文化財指定が取り消された1960年の「永仁の壺事件」がきっかけとなった。
「時代が違うとわかった途端、作品を認めていた評論家も世間も美の価値を下げる。この風潮に納得がいかなくて、なんとか映画にしたいと思ってきた」という。
作品の美に、作者や時代の裏付けが必要なのか。
そんな問いかけを映像化したのが本作である。
ベタすぎるシナリオと変わりばえしない豪華キャスト…目新しさこそまったくないが演技とは演者の人間力だと知る作品
ベタすぎるシナリオと変わりばえしない豪華キャスト
有名か無名かで評価が決まってしまう芸術価値。
そんな昨今の歪んだ風潮に疑問を投げかける本作。
たしかにテーマ自体は崇高だと思う。
言いたいこともわかる。
だがこのテーマで取り上げたのが、評価されなかった不世出の天才画家と贋作というのは、あまりにもベタすぎるシナリオである。
これでは期待以上にも以下にもならない。
豪華キャストについてもシナリオと同じだ。
たしかに豪華ではあるが、豪華であるだけで特に変わりばえしていない。
サプライズがあるとすれば、あざみ役を務めた菅野恵さん※のキャスティングくらいだろう。
こんな調子では、『前略おふくろ様』『北の国から』の頃から何もアップデートできていないと揶揄されても、致し方ないことなのかもしれない。
だからといって、上手に複雑化させたシナリオだけが良い作品だとは思っていない。
シンプルかつ王道でありながら、素晴らしい作品ならたくさんある。
キャスティングだって同じだ。
豪華キャストが悪いといっているわけではない。
信頼できる俳優を揃えるのは、品質の担保という点で合点がいく。
客寄せパンダのような目新しいキャスティングは話題になるが、品質を落としかねないリスクにもなるからだ。
だから合点はいくのだが、しかしマンネリ化だけはどうしても防げない。
これではせっかくいくらか作風が違う作品でも、すべて同じようにみえてしまうのも無理からぬこと。
それが長所であることは重々わかっているが、それが短所になっていることも知らなければならない。
本作は、倉本聰作品のファンではない著者にとって後者。
倉本聰作品といったらだいたいこんなイメージ。
そういう当たり障りない感想を抱く作品である。
※.あざみ役:菅野恵
2015年に舞台芸術学院ステージアーティスト科を卒業。
その後舞台を中心に俳優活動を開始。
小劇場などの出演で役者としての実力を培い2017年に富良野GROUP「走る」(作・共同演出:倉本聰、演出:中村龍史)にオーディションで選ばれ出演。
また、2019年4月~2020年3月まで放送になったテレビ朝日「やすらぎの刻〜道」の里子役でドラマデビュー。
2023年には富良野GROUP公演「悲別.KANASHIBETSU2023」(作・監修:倉本聰 演出:久保隆徳)に出演するなど、多数の倉本聰作品に出演している。
本作『海の沈黙』がスクリーンデビュー作となる。
目新しさこそまったくないが演技とは演者の人間力だと知る作品
倉本聰作品といったらだいたいこんなイメージ。
前述した通り、本作はそういう当たり障りない感想を抱く作品である。
だがしかし、演者の演技力が非常に際立つ作品ではあった。
変わりばえこそしないものの、豪華キャストは伊達ではない。
特に津山竜次役を務めた本木雅弘氏の存在感は、目を見張るものがある。
主役にも関わらずそれほど出番が多くなかった津山竜次。
だが、津山竜次からは天才画家の風格とカリスマ性が、本木雅弘氏の手によってたしかに滲み出ていた。
そしてそんな不遇な主役を引き立たせるように、たしかな存在感を放ちながらも主張しすぎなかった助演の面々。
濃い演技で近頃すっかり嫌われ役が板についてきた石坂浩二氏ですら、存在感は示すものの、その演技はけっして濃すぎるものではなかった。
小泉今日子さん、中井貴一氏、仲村トオル氏についても同様で、瞬間の存在感だけを残すような演技に徹していたように思う。
逆に瞬間の存在感しか残せない程度の出番しかなかった、清水美砂さんや菅野恵さんの演技の方が印象に残っている。
それがなんとも興味深く面白い。
たしかに本作は目新しい要素に乏しい。
だが新しい発見がないわけではない。
俳優陣の演技には、変わりばえしないからこそ積み重ねられた何かを、たしかに感じることができたのだ。
まるでそれは、演技の善し悪しとは演者が持つ人間力で決定すると言わんばかりの、演者たちの熱量。
「これまでの作風ではないが、倉本イズムである世渡りが下手な人たちの人間像はしっかり描かれている」(若松節朗監督)
それはまるで若松節朗監督が話す「世渡りが下手な人たちの人間像」であり、それを表現できるのは変わりばえしない豪華キャストだけなのかもしれない。
そう感じた今だからこそ、こう思う。
本作の本質は物語にあらず。
人の生き様にこそあり。
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