アゴラの記事を補足しておくと、2009年以降に新たに労働市場に入ってきたのは、退職後の高齢者と主婦である。そのほとんどはパートタイム労働者なので、労働人口は増えたが、総労働時間が減ったのだ。

jikyu
正社員とパートタイム社員(右軸)の実質賃金(時給)


上の図は川口=原のデータだが、「正社員と非正規の格差が拡大した」という一般的なイメージとは逆に、人手不足でパートタイム労働者の時給は上がった。このためパートの供給が増えたが、彼らの時給は正社員のほぼ半分。正社員の給与が下がり、定年退職してパートに置き換わったので、合計した平均賃金は上がらない。
これはマルクス的にいうと、高齢者と主婦が失業予備軍として低賃金労働を供給したということだ。失業予備軍とは労働市場の外側にいる人々で、労働供給の価格弾力性が大きいので、時給が上がると労働市場に入ってくる。特に2010年代にコンビニや外食などの業務が自動化され、こういう非熟練労働者が大量に供給された。

このように労働市場に新しい労働者が入ってくるのは悪いことではない。それを「格差の拡大」というのも当たらない。高齢者や女性が働きやすくなったのは、コンビニや外食が自動化されたためで、それによって「雇用が失われる」というのは逆である。労働市場の流動化は、日本的な形で徐々に進んでいるのだ。

労働供給が無限に弾力的で賃金が生存最低水準に張りつく状況は発展途上国でもみられるが、資本蓄積が進むと労働需要が増え、価格メカニズムが機能して賃金が上がり始める。これをルイスの転換点と呼ぶ。最近インフレ率がやや上昇してきたことは、日本でもそれに似た転換点が近づいているのかもしれない。