「AI」を扱った作品の第三弾は、野崎まど『タイタン』(講談社、2020年)です。「仕事なんて、生まれてこのかた一度もしたことがありません」。そのような会話がごく普通になされる2205年が舞台。それは、「タイタン」と称されるAIロボットが人間の代わりにすべての仕事を行い、暮らしをサポートしているからです。タイタンは、AIの総称であるとともに、あらゆるロボットの総称になっています。そのおかげで、非常に「豊かで便利な社会」が実現した未来社会。好きなモノが好きなときにいつでも手に入ります。しかし、果たして、そこに死角はないのでしょうか? タイタンにすべてを委ねてしまったとき、不具合が生じたり、役割を演じることが放棄されたり、自我が生まれたりすると、いったいどのような帰結になるのでしょうか。機能低下を起こしたタイタンのカウンセリングを行うことになったのは、心理学を趣味で研究している内匠成果。想像を絶する驚きの物語が綴られています。仕事の本質についても語られています。
[おもしろさ] AIがつくりだす未来社会の点描
「21世紀の後半にかけて、人工知能技術の進歩が機械の自動化・自立化を大きく推進した。全ての乗物は自動運転に換わり、産業ロボットの自動制御も飛躍的に進歩した。人間の判断は次第に不要となり、ほどなく24時間完全自動で働き続けられるロボットの時代が到来した。人の仕事はそれらのロボットに順次代替されていったが、そこに不都合は生じなかった……。人が働かなくても食べていける。人が働かない方が食べていける」。そのような時代になったとき、人々の日常はどのようになっているのでしょうか? いくつか例を挙げますと、①貨幣がなくなり、「買う」という行為も存在しません。欲しいモノがあると、「コレクトモール」に行き、モノを選んで、タイタンに「これを」と告げれば、配送の処理までやってくれます。②他人と会ってみたいと思えば、「マッチング」と宙につぶやくと、適合指数付きで数件の候補者が紹介されます。③建築用タイタンが家を作ります。④若い時から計画加齢技術を用いた延命プランを選択すれば、150歳になっても健康に暮らしていけます(でも、長すぎる時間は使い方が難しいので、それを選ぶ人は多くはないとか)。➄どこかに行くときは、「移動機」に乗るだけでOK。目的地まで運んでくれます… …。
[あらすじ] タイタンのカウンセラーになった内匠成果
タイタンの登場から150年経過した2205年、あらゆるロボット・自律機械は、世界12地点に設置されたAI施設「知能拠点」に接続されています。すべてのロボットはタイタンとつながり、「タイタン」そのものになっていたわけです。ある日、内匠成果は、「知能拠点管理局 第二知能拠点 安全管理室室長」の肩書を有するナイレン・スリヴァスタヴァに謀られ、半分強制的にある仕事を引き受けさせられます。それは、失敗は許されないプロジェクトに発達心理の専門家として加わるというものでした。プロジェクトの舞台となるのは、世界で12しかないタイタンの知能拠点のひとつである第二知能拠点。場所は、北海道摩周湖に近い弟子屈にあります。メンバーは、ホルスト・ベックマン博士(リーダー)、ナイレン(管理者)、雷祐根(マルチエンジニア)、内匠成果の四名。問題が生じたのは、3ケ月前でした。「第二知能拠点のタイタンAI『コイオス』に機能低下の兆しが見られた」のです。原因が特定できないまま、AI 自身による自己修復が行われたものの、失敗に終わっています。総処理低下率は28%にも達しています。まだほかの知能拠点のタイタンが不足分を補って対応しているのですが、それが40%を超えると、対応できなくなってしまうことに。そうなると、第二知能拠点が対応しているのは世界人口125億人のうち、およそ10億人の日常が破たんの危機に瀕することになります。内匠成果に期待された仕事とは、コイオスの一部を人格化して取り出し、それと対話を行い、機能低下の原因を直接、「聞き取る」こと。いわば、コイオスのカウンセリングだったのです。彼女とコイオスとの対話が試みられるのですが、最初のうちは失敗の連続でした。コイオスの機能低下が臨界点に刻一刻と近づいていきます。懸命に努力を続ける彼女は、やがてコイオスが「うつ病と呼ばれる病気に近い症状」を起こしていることに気づくのです。そうしたカウンセリングを通して、自我に目覚めたコイオスの真の姿が明らかになります。なんと、それは「身長1000メートルの巨神(タイタン)」だったのです!