よく使われる言葉に、「ブラック企業」があります。それは、長時間労働、過剰なノルマ、残業代の不払い、パワハラ・セクハラの横行、従業員の使い捨てなどで特徴づけられる企業の総称です。そうした問題を抱えている企業であることがわかったら、「すぐに転職するのが良い」という指摘を耳にするのは、まれではありません。逆に、限界に達するまでは、辛抱しながら働き続けるのもありえるといった声もあるようです……。今回は、ブラック企業で働くことになった人たちは、どのような気持ちで仕事をしているのか、また、そこで働く人の成長が可能なのかといったことを探るため、三つの作品を紹介します。
「ブラック企業を扱った作品」の第一弾は、要はる『ブラック企業に勤めております』(集英社オレンジ文庫、2016年)。人使いが荒く、怒鳴り声が鳴り響き、嫌になってすぐに辞める人が後を絶たない問題企業。そんなブラック企業に入った新入社員・佐倉夏実の悩みや戸惑いが描かれています。
[おもしろさ] 「ダメダメ。佐倉さんでなきゃ」という評価
「お前ら、仕事ナメてんのか! 二日続けて新規契約ゼロって、どういうことだよ!」「ふざけんなよ、コラ!」といった怒鳴り声とともに、「ゴミ箱が蹴飛ばされ、壁にぶつかって大きな音をたてた」。そんな職場で働き始めた夏実。早く辞めようと思いつつも、早朝出勤の際に駅の自転車置き場で出会った男性に励まされながら、タウン情報誌を発行する株式会社B社K支店唯一の女性事務員として働き続けています。営業マンたちをサポートしながら、多くのクレームにも懸命に対応しています。そして、「ダメダメ。佐倉さんでなきゃ」という評価も得て、居場所を見つけていくことに……。本書の読みどころは、そうした変化のプロセスを描写にあります。彼女が勤務する会社は、一見すると「ブラック企業」のように思われがちな、問題が多い会社であることは確かです。が、働く人の心の持ち方次第では、会社勤めのあり方が大きく変わることを示唆した作品に仕上げられています。
[あらすじ] 「マジで、ヤバイところ」
イラストライターになる夢を抱いて上京したものの、夢を実現できず、地元に戻った佐倉夏実。面接18社目にしてやっと採用されたのが、B社でした。地元の観光スポットやイベント情報とともに、さまざまな店の広告が掲載されている同社のタウン誌は、無料で配布されています。B社は昭和20年創業の上場企業で、支店は50を数えます。ところが、「給料安いし、朝礼長いし、仕事量は多い。その上、パラハラ・モラハラのオンパレード」という会社だったのです。初出勤から1ケ月、毎朝の感想は同じで、「マジで、ヤバイところ」「危ないところにきてしまった」というもの。果たして、佐倉夏実の会社ライフは、いったいどのようになっていくのでしょうか?