「社長を扱った作品」の第二弾は、安土敏『後継者』(ダイヤモンド社、2008年)。食品スーパー「フジシロ」の常務・藤代浩介は、能天気でゴルフ三昧の生活を送っていました。ところが、創業社長であり、父親でもある藤代浩二郎が急死。さらには、総合大型店(GMS)「プログレス」による悪質で巧妙な乗っ取り工作、腹心の寝返りなどが加わり、フジシロは絶体絶命のピンチに陥ります。そんななか、東西大学の流通論の準教授・佐藤詠美のサポートを受けることで経営に目覚めた浩介は、フジシロの再生に向けて動くことに。同じく「スーパーマーケット」といっても、総合大型店と食品スーパーには大きな違いがあることが分かります。著者の安土は、「サミット」の元社長・会長。業界に精通した人ならではのコンテンツになっています。
[おもしろさ] 「食品スーパー」 VS 「総合大型店」
フジシロは「食品スーパー」。他方、同社を傘下におこうとするプログレスは、ナショナル・チェーンの総合大型店。本書のユニークなところは、前者が後者との戦いに打ち勝つためのノウハウ・手法が明らかにされている点と、ゴルフ好きの浩介が食品スーパーと総合大型店の違いを、ゴルフになぞらえて理解していく点にあります。例えば、一日当たりの来店客数が多いデパートやGMSの大型店は、動いている球を打つようなもの。つまり不特定多数の顧客に合わせる仕事なのです。他方、食品スーパーには、止まっている球を打つところがあります。したがって、顧客のニーズに合わせて、鮮度管理などにもこまやかな配慮と特別な工夫・ノウハウが必要になります。また、GMSは、どこに打っても山の斜面を転げ落ちて球がフェアウェイに戻ってくるので、「易しいコース」と言えます。それに対し、食品スーパーというゴルフ場は「難コース」なのです……。そうした違いを理解したうえで、戦略を練り、実践していくことが、食品スーパーには求められることになります。
[あらすじ] フジシロ VS プログレス
藤代浩二郎社長の死後、フジシロの新体制は、藤代太一(藤代リリースの経営者。浩二郎の兄であり、大株主でもある)の裁配で、専務の守田哲夫が社長、実質的なオーナーでもある浩介が専務になるというものでした。守田は、それまで浩二郎の影に隠れた存在でしたので、手際よく物事を決める力を持ち合わせていません。それでも、ゴルフにうつつを抜かしていた能天気な浩介よりはましだというのが、大方の社員たちの評価。プログレスは、守田社長を抱き込み、取締役にも理解者を増やし、静かではあるが、確実に浩介の包囲網を強化し、乗っ取り工作を画策していきます。ただ、フジシロの株式は非公開。密かに株式を集めることはできません。大株主を口説いて株を譲ってもらうしか方法がないわけです。プログレスの巧妙な誘いが浩介にも及んできます。そうした攻勢に対し、取締役の堀越充三と開発部課長の重成大五郎の心配は、ピークに。彼らは、「食品スーパーで本当に強力な店を作れる企業が、まだ日本には数えるほどしかありません。我が社は、その数少ないひとつです。どこか大手と提携しなければ生き残れないような会社ではありません」という信念の持ち主。そうした状況下、堀越や重成をサポートする援軍が出現。東西大学の流通論の準教授・佐藤詠美がさまざまな建設的アドバイスをしてくれるようになったのです。ある日、浩介は、詠美との賭けゴルフに負け、2年間、ゴルフをしないと約束させられてしまいます。そのあと、高級化路線を採用した結果客足が遠のいた店と「普段の生活」を軸に店づくりを展開し多くの来客数を確保している店に案内され、その違いを大いに考えさせられることに。