
3月30日の介護給付費分科会で、厚労省から「人員基準欠如減算」の規定を見直す旨が示されました。委員からの強い要望を受けたもので、6月から施行される予定です。現場の人員不足のさらなる深刻化について、国としても無視できない状況の現れとも言えます。
最大3か月の減算猶予。その「要件」に注意
改めて見直しの内容を整理しましょう。現行では、従事者数が人員基準で必要とされる人員数に足りない状況となった場合、下記のケース・期間について3割減算となります。
- (1)介護・看護職員が「1割を超えて」減少した場合は、「その翌月から人員基準欠如が解消されるに至った月まで」適用される。
- (2)介護・看護職員が「1割の範囲内」で減少した場合は、「その翌々月から人員基準欠如が解消されるに至った月まで」適用される。
- (3)ケアマネの場合は、「人員基準欠如」が生じた月の「翌々月から欠如が解消されるに至った月まで」適用される。
今回の見直しでは、上記の(2)(3)について、「一定の要件」を満たした場合に、最大で3か月まで減算の適用を猶予するというものです((1)は変更なし)。その「一定の要件」ですが、以下の内容が示されています。
- (1)突発的で想定が困難な事象など、やむを得ない事情により欠如が生じた場合であること
- (2)ハローワーク等の活用により職員の確保にかかる取組みを行なっていること
- (3)一部の職員が過度な業務負担に陥らないよう、適正な労働時間管理を行なうなど必要な体制の整備を行なっていること
なお、(2)の取組みに関しては、指定権者等への報告を行なうことが想定されています。
減算猶予が延長されても廃業は増える!?
ただでさえ運営コストや人件費が上昇している中、3割減算となれば事業所が立ち行かなくなるのは明らかです。その点では、多少でも「猶予期間」が延ばされることで、建て直しの機会が得られるケースもあるでしょう。
しかし、どんなに手を尽くしても、地域によっては職員等の増員がままならない状況もあります。そうなると新規の利用者確保をあきらめざる得ず、恒常的な収入減により、やはり経営は早晩厳しくなります。もちろん、地域の介護ニーズも満たしにくくなります。
業界からは、有料職業紹介にかかる人材紹介手数料の上限設定などを求める要望が出されています。この規制が実現されるかどうかはともかく、ハローワークや福祉人材センターに頼っても人材が集まりにくい地域では、当面の高額の手数料を払いつつ、有料職業紹介等をあてにせざるを得ないでしょう。
そうなれば、減算を受けなくても、やはり高コストに追われがちです。こうした業界状況と照らした場合、今回の見直しはある意味で「延命措置」に過ぎないのかもしれません。
気になるのは、猶予期間の延長が「人員不足による事業廃止に向けた手続き期間(利用者の引継ぎ手配など)」にあてられてしまうことがないかという点です。「まさか」と思われるかもしれませんが、仮にそうした事態が生じれば施策の意味自体が問われかねません。
「事業者任せ」としない体制が必要な時代
今回の見直しにともなって必要なことは、人員基準欠如の状態に陥った時点で「事業者任せ」とせずに、都道府県や市町村の強い関与を併記するなど、地域での総動員体制を築くことでしょう。場合によっては、広域の大規模法人などから、現場の体制立て直しに向けて人員支援の臨時要請なども求められます。
こう述べると「何らかの大規模災害が起こったよう」と思われるかもしれません。
そもそも、人員基準欠如の状態については、今の時代において1つの事業者の特殊事情に留まらない構造が背景にあることの可能性を考えなければなりません。つまり、1つの事業者が人員基準欠如に陥った場合、水面下では地域全体で同様の危機が広がっているという光景を頭に入れる必要があります。
このような危機の広域化という点では、先に述べた「大規模災害」に匹敵するという認識に立った制度設計を考えなければならない時代と言えるのではないでしょうか。
新たなプラットフォーム機能とのリンクも
たとえば、地域で人員基準欠如に至る事業者が出た場合(1割を超えて減少した場合も含む)、保険者としては「人員確保のための取組み報告」を受けるだけでなく、「人員が減った要因」の確認も必要でしょう。
そのうえで、その地域で「欠如に至る可能性のある事業所・施設がどれだけあるか」についての調査・分析を、保険者に義務づけるといった規定も望まれます。保険者だけで対応できない場合、都道府県、場合によっては厚労省自らが調査支援に乗り出すといったしくみも考えるべきはないでしょうか。
次期制度改正では、介護人材の確保に向けて、都道府県主体による課題解決のためのプラットフォーム機能の制度化が図られる予定です。こうした機能を整備するのなら、今回の人員基準欠如にかかる減算規定の見直しもしっかりリンクさせることが求められます。
今回の減算規定は、どちらかというと事業者の「自己責任」を前提とした制度設計から脱け出ていません。これを「公的責任」での解決へとシフトしない限り、事態の改善は難しい時代に入っているのではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『』(自由国民社)、 『』 (ぱる出版)、『』 (ぱる出版)、『』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。