
次の介護保険制度の見直しに向け、大枠のキーワードとなっているのが、「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービスモデル・支援体制の構築」です。ただし、ピンと来ない人も多いかもしれません。たとえば、分野の枠を超えた体制構築を入口としながら、どのようなしくみが求められるかを考えます。
多分野協働が地域を再興するというビジョン
少子化や都市部への人口流出により、介護・福祉等の担い手不足に悩む地域が全国各地で増えています。厚労省が「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」でも、こうした地域特性にスポットを当て、さまざまな課題への対応策の検討が続いています。
現場からのヒアリングでは、介護・医療・障害福祉、そして子ども支援まで、分野を横断した複合的な支援拠点などの取組みが紹介されています。そこからさらに進んで、地場産業との連携を強化し、障害者の就労支援や子どもの食育等につなげる動きもあります。
最近では、介護現場で活用される最新のIT機器が、地域の産福連携下で開発されるケースも見られます。こうした例も、分野横断による取組みの1つと言えるでしょう。
いわば多分野協働のあり方が、地域再興のビジョンとして位置づけられているわけです。こうした動きは、国が地域の好事例を後追いしつつ施策に反映させていく流れの中で、さらに強まることが予想されます。
多分野協働による担い手不足へのアプローチ
こうした多分野協働を、「担い手不足」の解消にも活かそうという動きも見られます。
提唱されているのが、人材確保等にかかるプラットフォーム機能の充実です。このプラットフォーム機能を都道府県単位で整備し、この機能を通じて(公的機関も関与しながら)小規模事業所でも人材確保や雇用管理を円滑に進めることが目指されています。
このプラットフォーム機能について、冒頭のあり方検討会の論点整理では、介護人材確保だけでなく、(障害福祉や保育など)幅広い福祉人材の確保につながるような方向での機能強化も提案されています。
たとえば、現場ヒアリングでは、分野の枠を超えた複数の資格取得をサポートするしくみにより、医療・介護・障害(加えて保育)など、どの分野にも対応できる職員の育成をカギとしています。確かに担い手不足の中、分野を超えた複合的な拠点整備を進めるとなれば、こうしたマルチな専門性を発揮できる人材育成のビジョンも必要になるでしょう。
マルチ専門職育成でも、必要なのは処遇改善
もちろん、「そう簡単には行かない」と思う人も多いかもしれません。介護はもちろん、障害福祉や保育の分野でも他産業との平均賃金の差は歴然としています。医療や看護においても、病院勤務と比べて地域をフィールドとする職種の賃金の低さが大きな課題です。
そうした中で、複数の資格取得によってマルチな専門性を身に着けたとしても、「賃金増には限界がある一方で、求められる職責だけが拡大する」というケースが危惧されます。
最先端のテクノロジー活用や、地域住民を巻き込んだ多様な援助者の確保といった「生産性向上」で乗り切るといったビジョンはあるかもしれません。それでも、地域に根ざした職業ビジョンを描くうえでは、それに見合う処遇とプライベートを犠牲にしない働き方を整えるという前提が不可欠です。
1つ希望があるとすれば、多分野横断の人材確保に向けた処遇改善において、協働できる業界や職能の範囲が広がることです。これにより、たとえば単一のサービス分野や職能ごとに処遇改善等を求める声を上げるより、連携できる仲間のつながりで「声」をさらに大きくできる可能性があります。
多分野横断による「居場所確保」も有効では?
これを実現するうえでは、先に述べたプラットフォーム機能の中に、現場の多職種が集まれる「分野横断型の従事者協議会」などを設置することが望ましいでしょう。
場合によっては、現場従事者のための一種の「常設サロン」のような場を設け、幅広い仲間同士が現場の悩みなどを語り合うというスタイルを取ってもいいかもしれません。
1つの職場内は空間が狭いうえに、同僚同士の密度が濃くなりがちで、それゆえに「悩みがあっても口にしにくい」というケースもあります。多様な人々が集うことにより、職場ではなかなか「口に出せない」ことも気軽に話せる雰囲気を作り出せる期待もあります。
また、職場と自宅の往復以外で「仲間のいる場所」が確保されることで、従事者のための新たな居場所ともなります。たとえば、介護職が自身の子育てに関して、保育士資格所有者に相談するなどの場面も想定されます。
これが職業上の閉塞感を緩和できれば、離職を防ぐ効果にもつながるかもしれません。「(子どもから高齢者まで)利用者の居場所づくり」はよく語られますが、担い手側の「居場所」にも配慮する時代と言えるでしょう。
実際、先のあり方検討会の論点でも、先述のプラットフォーム機能と多様な専門職に関する機関と連携して、多職種協働を推進するといったビジョンも示されています。
現場の担い手にとって、どこまで「風通し」のいい環境が築けるか。担い手不足をめぐっては、こうした当事者の視点を反映できる機会が求められるのは言うまでもありません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『』(自由国民社)、 『』 (ぱる出版)、『』 (ぱる出版)、『』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。