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ポスト資本主義をどう乗り越えていくべきか?──『テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』

この『テクノ封建制』は、『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』で知られる、経済学者ヤニス・バルファキスによる新刊で、テーマは「ポスト資本主義に移行している、現代の経済をめぐる状態について」になる。

バルファキスの著作には他にも、物語仕立てで「資本主義後以外の制度」を考察していく実質的なSF作品『クソッたれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』もあるが、本作もそうした、現代における資本主義の意味とそれ以外の未来を問い直していく流れの中にある一冊だ。本作でも前著で語られた「資本主義以降の制度の模索」はわかりやすく繰り返されているので、本作から読んでも特に問題ない。

バルファキスは、テクノ封建制について次のように語っている。

 では、私の仮説とは? それは、資本主義はすでに死んでいる、というものだ。つまり資本主義の力学がもはや経済を動かしてはいない、という意味だ。資本主義が担ってきた役割はまったく別のなにかに置き換えられている。その別のなにかを私は「テクノ封建制」と名付けた。p.5

バルファキスが資本主義はすでに死んでおり、現代は「テクノ封建制」に移行していると語るその骨子は、監視資本主義やプラットフォーム資本主義といった別の用語ですでに定義・表現されている部分とも重なっているが、同時にあえてこの名付けだからこそ現代の構造がわかりやすくなっている面もあり、なかなかおもしろかった。

そして、現代がテクノ封建制の時代にあるという前提の上で、以後に模索する形として展開される「資本主義以外の制度の話」も思考実験としてはおもしろい。全部を要約できるわけではないので、以後この記事でそのさわりの部分を紹介していこう。

テクノ封建制って何なん?

バルファキスが語る、テクノ封建制って何なのか? の話をする前に、封建制それ自体の説明をしておこう。封建制とは土地を領有している領主が、土地を人々に貸し、縛り付けることで利益を吸い上げる、土地によって固定化された社会制度のことを(特に西ヨーロッパ中世においては)指している。

多くの国が資本主義体制に移行した現在も、土地を持っている人間が資産的な意味で強いことは変わらないが、バルファキスがいう「テクノ封建制」は実在の土地とは意味が異なっている。テクノロジーによって新しく生み出された土地──、一般的にいうところの「プラットフォーマー」らが新たな領主になっているというのである。

たとえばわれわれは、GoogleやAppleと無関係に過ごすことは難しい。AppleやGoogleはAndroidやiPhone、ウェブツールを通して広大なクラウドの土地を用意し、そこで多くの開発者がアプリを作り、売上の一部を領主(GoogleやApple)に上納する。アプリに課金しない人でも、その行動履歴データを吸い上げ、サービスに生かされている。われわれは自分でも意識せぬままに「クラウド領主に仕えるクラウド農奴」に変えられているのだ──というのが、基本的な「テクノ封建制」論の骨子である。

それってプラットフォーマーは、非プラットフォーマーと比べて金が儲かるよねっていうだけの話じゃない? と思うかもしれないが、いくつかの点で、これまでとは質的に異なるのだと、語られていく。まず第一に、GEやゼネラルモーターズといったコングロマリットで働く人々は企業収益の8割程度を給与や賃金として受け取っている。

しかし、巨大テック企業の労働者が受け取る賃金は、企業収益の1%にも満たない。なぜなら、賃金労働者がその企業の収益において果たす役割は、テック企業の一部に過ぎないからだ。じゃあ他の99%以上の収益はどこから上がっているのかといえば、数十億もの人々が自発的に行っている無賃労働によってである──というわけだ。

クラウド資本が成し遂げた一番の偉業といえば、資本の自己再生産の方法に革命を起こしたことである。クラウド資本が人類にもたらした真の革命とは、何十億もの人々を、無償で労働をするクラウド農奴へと変貌させたことだ。現代の農奴は、クラウド資本の再生産をその所有者の利益のために嬉々として行っているのだ。(p.116)

未だに従来の資本主義下で資本を伸ばしている製造企業も数多いが、これらも結局はクラウド領主の意向に沿ってモノを売る存在に過ぎず、昔の封臣と領主の関係を築いているにすぎない。イーロン・マスクがかなりの無茶をしてまでTwitterを買収したのも、彼がテスラやスペースXといった数々の巨大企業を有しながらも、クラウド領主として土地代を徴収できるようなものを持っていなかったからだ──というのである。

今や国を手に入れたかのように振る舞う彼の姿をみていると土地代とかそういうレベルの話じゃなくなってね? 感もあるが、納得感はある話だ。

テクノ封建制からの脱却

さて、本書ではどうして現代はそのような状態になってしまったのか、その歴史的な経緯を追っていくパートもあるのだがそこは読んで確かめてもらうとして、じゃあどうすればいいのか? について触れておこう。クラウド領主が力を持つなら対抗手段は同じぐらいの規模のクラウド領主を各国が立ち上げることだろうが、うまくいっているのは遮断と自国企業の保護・癒着を実行した中国ぐらいで、他は負けている。

著者がテクノ封建制やその前の資本主義に代わりうるシステムとして提案しているのが、『クソッたれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』でも提示された新システムだ。この新システム化では、企業には絶対的な君主はおらず、すべてが民主化されている。具体的には、社員は入社時に「一株」を付与され、この株は売却も貸出もできないかわりに一票の議決権を与え、採用から昇進、研究、製品開発、給与の分配まであらゆる判断に一票で関与できるようになる。給与は会社の売上から税金分を引いた収益を4つのカテゴリー──会社の固定費、研究開発費、社員の基本給、それから最後にボーナス分──に分け、ひとり一票の投票で分配方法を全員で決める。

このシステム下ではベテランも新人も職務もみな平等に扱われる。もしこのシステムが今すぐに適用されたら、ベゾスもマスクも会社の議決権を一票しか持たないので、会社の方針を決定するには他社員の過半数を説得しなければならない。株主は社員だけで売買や貸し借りもできないので、金融と株式投機の結合も消える。

言い換えると、労働市場と株式市場を廃止して資本主義企業をなくせば、真に競争的な製品市場と価格形成のプロセスが整い、それによってこれまで誤って資本主義と結びつけて考えられてきた起業家精神とイノベーションの原動力が強化されるということだ。p.244

おわりに

本書ではたとえばアプリの開発者がわれわれのデータ(閲覧データや投稿した文章など)を使用したいときには、合意と「使用料」を払うように保証されるなど、様々な側面からの提案が含まれている。いや、そんなんうまくいくわけなくない? と思う提案もあるし、施策の中には歴史的にすでに試みられて失敗しているものもある(不動産の評価システムなど)が、個人的には思考実験レベルではおもしろいと思う。それは、こんなシステムは思考実験レベルでしか成立しないだろうということでもあるが。

現状の資本主義がある種の袋小路に陥っているのは明らかに思えるし、現状を打破するためには様々な角度、システムからの検証も必要なのだろう。民主的な企業システムの話など本書ではもっと詳細に論じられている他、このテクノ封建制がウクライナ戦争や仮想通貨にどのような影響を及ぼしたかなど、現代の様々な側面との関連についても語られているので、気になったら読んでみてね。




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