毎年秋頃に恒例となっている早川書房の電子書籍最大50%割引のセールがきているので、今回も「前回から今回にかけて、新しくセール対象になった作品」を中心に紹介していこうかと。期間的には、だいたい2023年12月頃〜2024年4月頃の作品までが新しくセール対象になっている。個人的には今回は、SF・小説よりもノンフィクションにおすすめしたい作品が多いので、ノンフィクション多めの編成でお送りします。
早川書房は先日自社の電子書籍ストアも始めたので、Kindleなどでの電子書籍セールはもうないかもな思っていたのだが、どうやらやってくれるようだ。しかしこれから先もずっと続くとは限らないので、欲しい本は買える時に買っておくべきだろう。
amzn.to
ノンフィクションのおすすめを紹介する。
一般的に、AIの発展など技術革新が起こったらそれによって生産性は上がって、経済は成長し、雇用も生まれ、経済全体にとっても良いことがあるとされてきた。しかし、本当にそうだろうか? 本書は、新しいテクノロジーが生産性を向上させても、それが繁栄をもたらすかというとそんなことはなく、不平等と貧困を増大させることもある──という事例を、1000年にわたってみていく一冊である。
単純な話だが、新たなテクノロジーが業務を自動化し、労働者を不要なものとするなら、労働者に利益が還元されるはずがない。セルフレジ技術が発展し、レジ係を廃止してセルフレジに置き換えた場合、面倒な作業がユーザーに転嫁され、労働者はただ減らされただけだ。儲かったのは経営者だけである。では、どうしたらテクノロジーの発展を不平等と貧困の解消に役立てられるのか──? という問いが下巻では論じられていく。AI失業が話題になる今、読んでおきたい本だ。
ウェイジャー号は財宝を積んだスペイン船を追う密命を帯びた250人の乗組員がいる大規模な船だったが、過酷な航海と壊血病によって南米大陸を航行中嵐に飲み込まれてしまう。わずかに生き残った乗組員たちはろくに食料もとれない無人島に到達し、食料や武器を奪い合い、海軍の規範を維持することもままならず、果てには殺人や空腹ゆえに人肉食にまで及ぶものが現れて──と、絶望的な状況を描き出していく。
『蝿の王』的なサバイバル、出発時のわくわくする冒険、帰国してからの法廷劇と、どの章も異なる読み味で楽しませてくれる。一気読み必至のノンフィクションだ。
言論の自由の歴史は一進一退の歴史であり、それがもたらす功罪、問題意識も変化していく(たとえば現代でいえばフェイクニュースの蔓延とそれにどう対策していくのかなど)。言論の自由の意味について、あらためて考え直させてくれる一冊だ。
たとえば、前者の考えは、ようやくすれば自分が座っている椅子に後ろに倒すボタンがついているのだから、それを押す権利は自分にあるというものだ。この主張は「自分のものとわかりきっているものに付属するものはすべて自分のもの」という、「付属」を根拠としている。ただ、もう一方の主張も正当性がないわけではない。こちらは、ようは自分の座席の背もたれと前の座席の背もたれの間の垂直空間は、すべて自分の領域だと主張しているのだ。これは、土地の権利と似ている。
「私の!」と「いや私の!」という争いの大半は視界に入らないところで起きており、まれにニー・ディフェンダーのような代物が登場して世間に醜態をさらすことになる。このようなときに得をするのは、所有権とは実際にどう役に立つかを知っている人間である。*1
電子書籍が実質的に「所有」ではなくただ購入者に長期レンタルさせているだけなど、「所有権」をめぐる問題は(あまり意識することはないが)われわれの日常生活に深く絡まっているから、日常の当たり前を見直すためにもおすすめの一冊だ。
遺伝子改変をはじめとした、「遺伝子」全般の重要性が語られることの多い昨今だが、人間の体の真の素材になっているのは、遺伝子を表現した結果である「細胞」であり、本書はあらためてなぜ「細胞」が重要なのかを、あらためて教えてくれる。
フィクションのおすすめ
単純に大政奉還されなかった、で終わらせるわけではなく、その後どのような内乱が続いたのか(赤化した蝦夷が突如独立を宣言しソ連を後ろ盾として首都陥落の瀬戸際まで行く蝦夷事変とか、、また徳川幕府が続くことで諸外国との関係性はどうなったのか、文化の変容は──といった細部も詰められていて、歴史改変SFの醍醐味がたっぷりつまっており、かなりおすすめだ。
おわりに
今回はこんな感じかな。今回はやはりノンフィクションが豊作で、特別取り上げたいとは思わなかったけどジュネイド・ムビーン『AIに勝つ数学脳』なんかも「AIと協働してパフォーマンスを発揮するためには、どのような考え方が必要か?」というテーマの本でおもしろかったし粒ぞろい。2023年12月頃〜2024年4月以前の作品については、過去のセール記事をご参照ください。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
*1:マイケル ヘラー; ジェームズ ザルツマン. Mine! 私たちを支配する「所有」のルール (p.17). 株式会社 早川書房. Kindle 版.