今年おもしろかった本を一気に紹介します。大きめの書店が次々閉店し、人手不足や配送の問題もあって出版的には厳しい時期が続くがおもしろい本は依然として絶えない。あとゲームもいっぱいやったので、本だけでなくゲームも合わせて振り返っていこう。いつもは長くても5000文字ぐらいだが、今回は試しに合計1万文字以上書いてみたので、よかったら目次から興味あるやつにとんで読んでみてください。
- SFを紹介する
- ノンフィクションを紹介する
- ウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク』
- ラッセル・A・ポルドラック『習慣と脳の科学』
- サイモン・マッカーシー=ジョーンズ『悪意の科学』
- デヴィッド・グレーバー,デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明』
- ダニエル・ソカッチ『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』
- ジョナサン・マレシック『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』
- キャスリン・ペイジ・ハーデン『遺伝と平等』
- マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング『リバタリアンとトンデモ医療が反ワクチンで手を結ぶ話』
- キース・トムスン『海賊たちは黄金を目指す』
- ヴィトルト・シャブウォフスキ『独裁者の料理人』
- 高野秀行『イラク水滸伝』
- ジョセフ・ヘンリック『WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源』
- ゲームも紹介するぞ
- おわりに
SFを紹介する
キム・スタンリー・ロビンスン『未来省』
気候変動対策といえば二酸化炭素削減というイメージがあるが、できることはそれだけではない。たとえば住む場所を奪われた動物の保護も必要だし、住む場所を追われ移民となった人々の調整、海水を真水にする技術の開発に、炭素排出を削減することで発行される、世界中の通貨で換金可能なデジタル通貨の”カーボンコイン”の創造など、本作では経済から農業まで、世界のあらゆる側面を射程に入れて語り尽くしている。その性質上時に何ページにもわたってノンフィクションみたいな解説パートが入り(たとえば現代貨幣理論についてとか)、シンプルに小説、物語として評価すると評価は落ちるのだが、そうした弱点を補ってあまりある壮大さのある長篇だ。
N・K・ジェミシン『輝石の空』
特に本作はネビュラ、ローカス賞も受賞してトリプルクラウンになっている。物語の舞台は、スティルネスと呼ばれる一つの巨大な大陸が存在する惑星。ここでは数百年ごとに大規模な地震活動や天変地異によって破壊的な気候変動が起こり、これまで多くの文明が滅びてきた。それでも人間が命脈を保ってきたのは造山能力者と呼ばれるエネルギーをコントロールする能力者がいるからで──と、最初はファンタジィの装いではじまり、次第に科学と魔法の関連、月など惑星が絡んだ壮大な規模の物語へと発展していくことになる。差別の問題も取り扱いながら、Fateシリーズを彷彿とさせる物語を三部を通して描きだしてみせた、完結した機会に読んで欲しい傑作だ。
ローラン・ビネ『文明交錯』
シーラン・ジェイ・ジャオ『鋼鉄紅女』
本作ではロボットは九尾の狐や朱雀、白虎などの中国神話からモチーフがとられており、最初は動物形態だが次第に直立二足歩行形態、英雄形態に変化していく。で、『ダーリン〜』に影響を受けているのはどこかといえば男女二人乗りのロボットであることで、本書はその設定をもとに巨大ロボットを文学装置として青春とジェンダーとセクシュアリティを描き出していく。この世界では女は男に付き従うべきだ、などの男性上位の価値観があり、それを主人公の女性がぶち壊していくのが作品の根本のロジックに埋め込まれていて、そうした伝統・革新を破壊していく側面においては『クロスアンジュ』とか『天元突破グレンラガン』的なおもしろさもある。
ジョン・スコルジー『怪獣保護協会』
『宇宙の果ての本屋』
人為的に造られた独自のナノロボット生命体を、その生殖に適した水星で繁殖させるために奮闘する生命の拡散をテーマにした王晋康「水星播種」、突如として時間が流れなくなった世界で、試験的に創られていた時間発生装置(周囲数メートルの時間を動かす)を複製するために奮闘する時の点灯人を描き出す万象峰年「時の点灯人」など、それぞれのテーマで年間ベスト級の短篇が揃っている。中国SFに限定せずとも、今年おもしろいSF短篇が読みたいなら、まず読むべきは本書だろう。
ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』
しかし、その絵はなぜか芸術評論家に評価され──と狂乱のロボットを中心に、人間のおかしさをユーモアと共に描き出していく。絵を描くロボットなど、昨今の情勢をまるで見てきたかのようなロボット・ピカレスク長篇だ。僕はロボットがギャングに育てられて殺人ロボットに成長していく映画『チャッピー』とかも大好きなんだけど、ロボット☓ピカレスクってなんかやけにおもしろいんだよね。文庫で250p程度の作品なので今回紹介したSFの中では比較的とっつきやすい作品といえる。
酉島伝法『奏で手のヌフレツン』
そして、その世界ならではの圧巻の情景、音楽を最後には魅せてくれる作品で、酉島伝法初挑戦の人にも本作をおすすめしたい。最初は読みづらいかもしれないが、100pも読めばこの世界に入り込んでいるはずだ。
川端裕人『ドードー鳥と孤独鳥』
ドードー鳥は絶滅動物として有名だが、孤独鳥と呼ばれる鳥は群れでみかけることはめったになく、捕まえるとたちまち鳴き声もたてずに涙を流し、どんな餌もがんとして拒み、ついには死んでしまうと語られるエキセントリックな鳥だ。絶滅した動物は、孤独鳥のように時に人の感情を揺れ動かす特徴を備えているもので、本作は遺伝子改変など現代的なテーマと共に絶滅動物たちの魅力と歴史に気づかせてくれる。
斜線堂有紀『回樹』『本の背骨が最後に残る』
紙の本が禁じられ、本の内容を人間が口伝で伝えていくようになった世界で、同じ本を覚えているはずなのに内容がズレた二人の人物が自身の正当性を主張する解釈合戦である”版重ね”──負けた方は生きたまま焼かれることになる──を行う「本の背骨が最後に残る」、映画に魂が存在する世界で、新たな傑作を世に生み出すため、魂を解放するために100年前の傑作群を二度と見れないようにフィルムを焼いて葬送していく「BTTF葬送」(『回樹』収録)など、特異な世界・状況を設定し、それならではのロジックを貫き通していく能力がずば抜けている作家・短篇集だ。
冬木糸一『SF超入門』
二〇二二年にロンドンの科学博物館で開催された『サイエンス・フィクション』展のガイドブックとして刊行されたグリン・モーガン編の『サイエンス・フィクション大全』も『SF超入門』でできなかったことが達成されていておもしろい。SFはもちろん現実の科学の発展の影響を受けるし、現実の科学もロボットや宇宙回遺髪など、SFからインスピレーションを受けることが多く──と、科学とSFは相互発展してきた歴史があるのだが本書はそのあたりの歴史を小説、映画を中心に解き明かしている。
SFマガジン10月号も特集「SFをつくる新しい力」でSF入門を行っていたし、これも入れれば全部で4冊もの(見逃しがあったらすまん)ガイドブックが一年で出たわけだ。全部読む必要はなく合いそうなものがあれば手にとって見るといいだろう。
ノンフィクションを紹介する
ウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク』
ラッセル・A・ポルドラック『習慣と脳の科学』
本書によると、人生を飼えることに成功した人と失敗した人の間で一番大きな違いには、転居の有無があるのだという。習慣を変えることに成功した人たちは、失敗した人たちに比べて約3倍も引っ越しをしていたとか。
サイモン・マッカーシー=ジョーンズ『悪意の科学』
たとえばトランプが勝利した歴史的なアメリカの大統領選で、世論調査によればトランプに投票した人のうち53%が、トランプを支持してはおらず、クリントンを勝たせなくなかったからだと答えている。トランプが当選したら嫌な気持ちになると答えた人たちもトランプに投票しているが、その理由は「混乱であっても何が起こるのかを見てみたかったから」とか「すべてを焼き尽くして、新しいスタートを切りたい」とか、さまざまである。自分や社会にとってマイナスになる可能性があってもカオスや混乱を欲する心情は、そう珍しいものではないのかもしれない。
デヴィッド・グレーバー,デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明』
たとえば、これまで「わかりやすい物語」として、人類はある時期を境にして狩猟採集生活から農耕を主とした定住生活へと移行し、人口が増え、国家や都市が生まれ、法律や軍隊も生まれて不自由や不平等が生まれていった──とするスケール発展の歴史があった。しかし、実際の歴史や考古学的証拠を追うと、人類の発展はそうシンプルなものではない。たとえば、いわゆる狩猟採集民は穀物や野菜の栽培や収穫の方法を理解しながらも農耕に完全にシフトせず、数千年にわたって農耕や家畜化と狩猟採集生活を共存させてきたし、社会の形態も必要に応じて様々に対応してきた。
本書は数多のビッグ・ヒストリーへの批判や、「あったこと」ではなく、「なかったこと」を中心に展開するので、どうしても記述はわかりにくくなる。どういうことかといえば、都市生活や奴隷制度や農耕が、ある時代の社会に「なかった」のはなぜなのかと問うていくのである。それはただ「(発明前だから)なかった」のではなく、「拒絶した」から存在しなかった場合もあり、そこには重要な意味を見出して、過去を検証していくのである。長大な本で値段も高いが、それだけの価値のある本だ。
ダニエル・ソカッチ『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』
ジョナサン・マレシック『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』
そのテーマの流れでおもしろかったのが、ジョナサン・マレシックによる労働で発生する燃え尽き症候群がなぜ起こるのか、どうやって対策をしたらいいのかについて書かれた『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』だ。燃え尽き症候群が発生するのは、自分のしている仕事が自身が期待する水準を満たさない時と簡潔に定義されているが、その性質上医師や看護師や教師のように、理想を高く抱きがちな職業ほど燃え尽き症候群が発生しやすい。対策としては労働に注力しすぎずほどほどにがんばることなどいくつかあるが、これは労働と尊厳のテーマにも接続できる。
燃え尽き症候群は自分や周りの人がいつどこで引き起こしても不思議ではないので、自衛や周りの人を助けてあげるためにも、重要な一冊だ。
キャスリン・ペイジ・ハーデン『遺伝と平等』
遺伝子によって容姿だけでなく、人の能力も大きな影響を受ける。そのことを公言すると容易に優生主義に結びつける人間が現れる危険性があるが、しかし優生主義に陥らないように、遺伝子の差も考慮しながら平等な社会を構築することもできるはずだ──と、キャスリン・ペイジ・ハーデン『遺伝と平等―人生の成り行きは変えられる―』では、最新の双子研究やゲノムワイド関連解析(個人のゲノムの全領域について、遺伝的な変異のある場所と表現系の関係を調べる手法)の成果を用いて迫っていく。かなりおもしろく、今後の世界の行末や社会制度を考えるにあたっても重要な一冊だ。
マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング『リバタリアンとトンデモ医療が反ワクチンで手を結ぶ話』
波動でどんな病気も治るなどトンデモ医療を提唱する人は昔からいたが、今はインターネットの力でそうした人たちも布教がしやすくなっている。そうして個別に旗揚げしたトンデモ医療アベンジャーズを、反ワクチン運動家が結びつけたのだ。反ワクチン運動家は2000年代初頭、資金不足に悩んでいたが、トンデモ医療アベンジャーズらと結びつくことで不足していたものを補い、声を一つにしはじめたのだという。アメリカで今どんなことがおこっているのか、その実態が本書を読むとよくわかる。
キース・トムスン『海賊たちは黄金を目指す』
ヴィトルト・シャブウォフスキ『独裁者の料理人』
ヴィトルト・シャブウォフスキによる『独裁者の料理人』はまさにその点に注目した一冊で、サダム・フセインやポル・ポト、ウガンダの大統領イディ・ミアンなど数々の名高い独裁者たちの料理人に話を聞いていく。フセインは何万人ものクルド人をガスで殺すよう命じた後何を食べたのか? 普段はどのような言動をする人物だったのか? そうしたエピソードだけでなく、彼らが好んで食べていたもののレシピも載っていて、料理をする人なら本書の楽しみはより増すだろう。
高野秀行『イラク水滸伝』
高野さんも50代なかばを超え、体力的に昔と同じようなやり方ではやっていられないだろうが、デビュー作の『幻獣ムベンベを追え』の時のような冒険心を未だに感じられたのも嬉しかった。そのうえ今は数々の経験を経てきているので、要所で「この文化は◯◯と共通している/反している」など、比較文化論のような視点まで獲得している。ページ数は460ページ超えと分厚いが、写真も多くページあたりの文字数はそう多くないので、サクッと読めるだろう。たいへんおすすめな一冊だ。
ジョセフ・ヘンリック『WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源』
ようするに、西洋人は「人間」の枠の中で実は「weird(奇妙な)」な存在なのだ。西洋の人は自分の属する大学など、社会や文化を中心にして実験することが多いが(自分が属する大学の学生など)、西洋人が人として外れ値なのだとしたら、その手法には問題がある。『私たち科学者がヒトの心理について理解していた事柄のほとんどは、心理面・行動面の重要な特質について、かなり異常と思われる集団から導き出されたものだということがわかった。p13』。本書ではなぜ西洋人はそこまで外れ値の集団になってしまったのか? ということを、個人主義の起源や宗教の影響から解き明かしていくのである。読み終わったら近日中に記事を書くので、また読んで欲しい。
ゲームも紹介するぞ
ここからはやったゲームについてすべて触れるわけではないが、記憶に残ったゲームについても軽く触れておこう。
Starfield
Baldur's Gate 3
アーマードコア6
各ステージがはじまる時、冬の景色だったり工場だったり様々なフィールドがあるが、その風景の中にロボットが佇んでいる姿が激烈にカッコよい。思わずスクショを何枚もとってしまうほどで、その点で僕にとっては特別なゲームになった。
おわりに
年末年始はランスシリーズの公認二次創作である大戦国ランスでもやろうかなと思っとります。あとゼルダとかもやったけど酔っちゃってろくにプレイできなかった。
ここで紹介した本のほとんど全部についてはこのブログで詳細な記事も書いているので、よかったら検索して読んでみてね(全部ペタペタ貼り付けてると邪魔だから)。