はじめに
本の雑誌に書いているノンフィクションガイド連載の原稿(2021年7月)を転載します。今回は宇宙の知的生命探査についての一冊からペンギン本、統計に批評にと多彩──だけどわりと地味めな本が揃った月である。今月号(2021年10月号)もよろしく! 10月号のテーマは「定年後も本は読めるのか」というかなり切実なテーマだ。
本の雑誌 2021年7月号掲載
その中でも中心テーマになっていくのは、コンタクトのパラドックスと呼ばれる問いかけだ。たとえば、我々は地球外の知的生命と何とかコンタクトをとりたい。しかし、事はそう単純な話ではなく、ジレンマが存在する。たとえば、未知の生命と接触した結果、ウイルスが伝搬する可能性がある。技術供与が人類間のパワーバランスを崩壊させる可能性もある。何より、相手が利他的な行動をとる保証がどこにもない。
宇宙が静かなのは、捕食者に居場所を知られたくないからかもしれないのだ。そこで、本書では地球外生命が利他的な行動をとる可能性はあるのか、といったことを自然選択など様々な理論を援用しながら考察し、最終的にはすべての情報を統合し、「われわれはコンタクトを試みるべきか」という問いかけに、答えを提示してみせる。人間はここまで思考を広げることができるのか、と唖然とさせてくれる快作だ。
この男は南極点到達チームとは別働隊にいたので生還を果たすが、それでも南極で越冬するハメになり、自分たちで掘った真っ暗な雪洞で数ヶ月もの間極限の生活を強いられることになる。彼は南極で、ペンギンが同性愛にふける、強姦や不倫(ペンギンは一夫一婦だと考えられていた)を行うといった奔放な性行動を目撃し、知られざるペンギンの生態に一早く気づいた男でもあった。南極探検の影の英雄と、ペンギンの未知の生態について知ることができる、一粒で二度おいしいノンフィクションだ。
たとえば、扶養家族一人に対して一〇万ドルが追加され、犠牲者の年齢や職業から予想収入を算出し、それを上乗せした。そうなると家事労働など賃金が発生しないケースはどうなるのか。働いていない子供は? 白人は黒人よりも収入が高く、差別の構造が補償額にも反映されてしまうなど、いくつもの問題点がある。本書は、生命保険や民事裁判など様々なケースでの人命の値段の計算方法をみながら、よりよい公平な形はないのかと思考をめぐらせていく。命の価値に無頓着でいると、自分の健康をリスクに晒すことになる。自衛のためにも重要な一冊だ。
数の概念はいつ、どのような形で人に生まれるのかを解き明かし、言語人類学だけではなく、犬やネズミに数の感覚はあるのかを調べる動物行動学、数を認識する時人間の脳がどう反応するのかを問う大脳生理学まで幅広い分野を横断的に取り扱っていく。読むことで、数への認識が一変する力作だ。
たとえば、「手紙」の章では、作中で手紙が用いられる場合、そこにはどのような効果が考えられるのか。クライマックスはどうあるべきなのか。一人称と三人称がもたらす効果の違いなど、小説における技法の数々が『ミドルマーチ』の内容と共に理解できる。一つの小説作品からどれほどの情報を引き出すことができるのかを教えてくれる一冊だ。