- 作者: 塩山芳明,南陀楼綾繁
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/07
- メディア: 文庫
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「わーったぜ婆ちゃん、こうしよう! 今までは順番に箱に詰めてたけど、今後は商品価値のある原稿だけ、段ボール箱に入れようぜ。残りはビニールヒモでひっちぱるだけ。明日ドシャ降りになっても、妖華や悠宇樹はこうすりゃ安心。DONKEYやR-KIDSの原稿は濡れてグシャグシャかもしんねえけど、ま、それも運命だよ!」「・・・・・・・何か民族差別みたいでイヤですね」「ちゃーうよ、それはちゃーう。こりゃ商品価値区別だから、ちっとも反道徳的行為じゃねーのよ」
漫画家が読んだらブチ切れて怒鳴り込んできかねないとんでも発言のオンパレードである。冗談なんだか本気なんだかわからない、最初から最後までこんな感じである。といっても後半(1990年から2004年までの日記である。後半とは1997年ぐらいから)毒舌がなりをひそめる。行動もおとなしくなり、相手に遠慮するようになる。家を買おうかどうか迷ったり、働いて帰って寝るだけの毎日に寂しさを感じたり、常に給料の少なさに怯えていたり、読んでいて息がつまってくる内容であった。夏まっさかりでうちの中が暑いこともあってか、とんでもない閉塞感。
人生は全然素敵なものじゃなくて、周りの人間はゴミクズのようなヤツらばっかりで、妻には団地が嫌だから引っ越そうとせっつかれ、両親には家の風水が悪いとなじられ、努力したって何にも達成されなくて、通勤には毎日四時間も時間がかかって──そんなの、ちっとも笑えない。まあヴォネガットでさえ笑えないユーモアセンスのない自分であるから、他の人がどう思うかはわからない。現に解説の福田和也氏などは、この閉塞感にまったく触れずにただ毒舌が面白い、著者の能力が凄い、と言うばかりである。確かに凄い、日記の中には書評じみたことが書いてあることもあるのだが、短い言葉(たぶん数百文字しかない)でバッサバッサと評価していく。ただ、眼をそむけたくなるぐらい、ひたすら読むのはつらかった。といっても一か所だけ素直に笑えたところもある。
九紋竜が『人妻熟女コミック』の原稿持参。数年前、一水社で出した単行本を渡して言う。
「次来る時までに、ここに簡単なキャラ描いてサインしといて」「何だ、読者プレゼントか?」「違う。古本屋に売んの。何もねえと100円か200円だが、サイン入りならゼロが1個余分に付く」「俺にも半分くれんのか?」「誰が。貯めて社員旅行の費用にすんのさ」「ひっでえ編プロもあったもんだぜ!」
ひっでえ編プロもあったもんだぜ! 唯一これが笑えたのは、たぶん作家側も許容しているコメントがついていたからだろう。大抵言いたいことを言う塩山に対して、作家は泣くほかない。それを想像してしまって笑える気分にならないのだが、これだけは笑えた。原稿をゴミのように扱ったり、作家を消耗品のように扱うのは一昔前という時代性を考慮してもちょっとひいてしまう。そりゃあ雷句先生もキレるぜ、っていう話ですよ。出版の世界が垣間見える一冊でした。