東京では桜も咲いて、いよいよ「春の銀河祭り」もたけなわといったところですが……ここで小ネタをひとつ。
系外銀河を撮影する際、星形成領域……いわゆる「赤ポチ」を表現するために、ナローバンドでHα成分を別撮りし、通常のRGB画像と合成するという手段を取る(取ろうとしている)方もいるかもしれません。しかし、ここで気を付ける必要がありそうなのが「ナローバンドフィルターの半値幅」と「対象の赤方偏移」です。
ナローバンドフィルターは名前の通り、特定の波長の光のみを通すフィルターです。しかし当然、透過する波長には幅があります。例えばHα線のナローバンドフィルターであれば、透過率を示す曲線は基本的にHα線の波長656.28nmを中心としたピークを描きます。ここで、透過率が50%になる場所でのピークの幅を「半値幅」(半値全幅)といいます。

半値幅が狭いほどピークは鋭く、目的の波長以外の光は通さないので、一般にナローバンドフィルターとしては高性能ということになります。私の使っているフィルターだと、例えばOptolongのL-Ultimate*1は半値幅がわずか3nmしかなく、極狭帯域フィルターとでも言うべき性能です。
ところが、系外銀河の撮影の場合、この半値幅の狭さが裏目に出かねません。。
宇宙はビッグバン以来膨張を続けているため、ある天体から出た光は、地球に届くまでの間に空間自体が伸びて波長が引き伸ばされます。これがいわゆる「赤方偏移」です。銀河系内の天体だと、地球までの距離が近いためにその効果は極めてわずかですが、これが数千万光年以上離れた系外銀河になってくると無視できない大きさになってきます。また、系外銀河が固有運動で銀河系から離れる方向に動いていた場合も、ドップラー効果によって赤方偏移は大きくなります。
もちろんHα線も例外ではなく、赤方偏移によって波長が長波長側にずれてきます。赤方偏移の量zは以下の式で表されます。
ここでは観測された光の波長、
は実験室等で測定される本来の波長で、Hα線の場合、
です。ちなみに
がマイナスの値を取った場合、相手の天体は固有運動によりこちらに近づいてきているということで、赤方偏移とは逆に波長が短いほうにずれる「青方偏移」を起こすことになります。
有名な系外銀河については、の値は既に計測されている*2ので、ここからずれたHα線の波長が計算できます。比較的近い系外銀河について計算してみたのがこちら。

フィルターの半値幅が3nmの場合、計算上はが1.5nmを超えると透過率が50%を切り影響が大きくなってきます*3が、上の表を見ると、地球からの距離が4000万光年前後を超えると厳しくなってきそうな感じ。さらに、おとめ座銀河団の銀河だと偏移が3nm近くもあって、極狭帯域フィルターだと種類によってはほとんど透過しなさそうです*4 *5。もっとも、透過率が少々低い程度なら、Hα線の近辺には他に強い輝線はないので案外大丈夫かもしれませんが……(^^;
まぁ、所詮は机上の計算値。そもそもあまり遠いとそもそも系外銀河内の星形成領域の分離自体が難しくなりますし、極端に半値幅の狭いフィルターを使わなければいいだけなので、それほど大きな問題ではないと思いますが、一応。