先日、ありがたいことにSvbony Japan様から製品レビューの依頼をいただきました。
対象は以下の2つです。
このうち、まずは前者の「SV220 H-Alpha&OIII デュアルナローバンドフィルター [3nm]」について取り上げてみたいと思います*1。
それにしても……以前から思っていたのですが、Svbonyの製品名はジャンル横断的に「SV~」とついていることが多い上、番号が同じでも製品が違う(今回のがまさにそう)ケースがあったりして、非常に分かりにくいですね。製品数も増えていまさらどうしようもないのでしょうけど、商品戦略的には悪手だと思います。
【注】本記事の利益相反について
と、「お約束」ですが、記事に入る前に一言だけ。
「利益相反」(Conflicts of Interest: COI)というのは、研究者が企業などから研究資金等を提供してもらうことによって「研究結果が特定の企業にとって都合のよいものになっているのではないか?」「研究結果の公表が公正に行われないのではないか?」などの疑問が第三者から見て生じかねない状態のことを指します。本記事を含む一連のレビューは「研究」ではありませんが、同様の疑念を生じさせかねません。そこで、以下のことを明確にしておきます。
本記事を含むSvbony製品の一連のレビューにおいてはSvbony Japan様より製品の提供を受けて実施しています。
しかしながらレビューに用いる製品の貸与を除き、Svbony様およびその関連企業のいずれからも、いかなる形の資金・物品提供、利益供与、記述内容の検閲等も一切受けておりません。製品提供者等の利益や意向に影響されることなく、本レビューを(いち個人のできる範囲に置いてですが)公正かつ適正に実施することをお約束いたします。
いわゆる「提灯記事」や「ステルスマーケティング」の類ではありませんので、そこはご安心ください。
デュアルナローバンドフィルターについて
さて、本記事で取り上げるのは、最近様々なメーカーから出るようになってきた「デュアルナローバンドフィルター」と呼ばれる類の製品です。その特徴を捉えるため、まずは基本的なところから説明していきましょう(この手の製品に詳しい方はこの項を読み飛ばしていただいて結構です)。
星雲や星団、系外銀河などの深宇宙天体(Deep Space Object, DSO)の発する光には様々な色のものがありますが、そのスペクトルの特徴で分けると、大きく「幅広い波長(連続スペクトル)で輝くもの」と「特定の波長(輝線スペクトル)で輝くもの」の2つに分けられます。
前者の代表は系外銀河で、例えば下に示したM88は幅広い波長域で満遍なく輝いていて、これといった特徴がみられません*2。これは、銀河を構成する「恒星」がそもそも連続スペクトルで輝いているためで、同じく恒星の集団である散開星団や球状星団、恒星の光を反射して輝く反射星雲*3も同様の傾向になります。

(以下、写真はHIROPON撮影、スペクトルデータは全て「ぐんま天文台」より)
一方、後者の代表が散光星雲や惑星状星雲、超新星残骸などです。下には超新星残骸のM1(かに星雲)*4、散光星雲のM42(オリオン大星雲)、惑星状星雲のNGC6543のスペクトルを示しますが、上の系外銀河と違って特定の波長のみで強く輝いているのが分かります。これは高エネルギー状態のガスが、ちょうどネオンサインのように自ら特定波長の光を放っているためです。

デュアルナローバンドフィルターが真価を発揮するのは、これらの天体に対してです。
今回レビュー予定の「H-Alpha&OIII デュアルナローバンドフィルター [3nm]」や「SII & OIII デュアルナローバンドフィルター [7nm]」は、この強く輝く「Hα線(水素原子由来。波長656.28nm)とOIII線(酸素原子由来。波長500.7nm)」あるいは「SII線(硫黄原子由来。波長672.4nm)とOIII線」のみを透過し、それ以外の波長の光は全てカットするようにできています。しかも、透過する波長の範囲は各3nmあるいは各7nmと狭く*5、そのため街明かりなどに由来する光害成分はほぼ全てカット。たとえ街なかの超光害地であっても星雲のみがコントラスト高く浮き上がってくることになります。
また、デュアルナローバンドフィルターの場合、HαやSIIは冷却カメラ(or デジカメ)のR画素、OIIIはG画素およびB画素で主に受かるため、結果的にカラー画像がワンショットで得られることになります*6。従来、ナローバンド撮影はモノクロカメラで行うのが一般的でしたが、このデュアルナローバンドフィルターの登場により、カラーカメラでもナローバンド撮影が手軽に楽しめるようになったのです*7。
本ブログの読者の方々なら既にご存じでしょうけど、この手のフィルターの威力はすさまじいもので、肉眼で2等星がやっとの東京都心からでも、こんな写真が簡単に撮れるほどです(※ Optolong L-Ultimate使用)。

2025年7月25日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D60mm, f200mm) 赤道儀化Z-GTiマウント
ZWO ASI533MC Pro, 0℃
Gain300, 180秒×40, Optolong L-Ultimateフィルター使用
32mm F4ガイドスコープ+ASI290MM+PHD2によるオートガイド
PixInsightほかで画像処理
ただ、こうした特性なので、上で書いた系外銀河のような連続スペクトルで輝く天体には、基本的に不向きです。確かに光害成分はカットされますが、同時に天体からの光も大幅にカットされてしまうため像が暗くなり、写りがかえって悪くなってしまうのです。
また、透過する波長が極端に限られるため、正確な色再現性は期待できません。元々それらの光でしか輝いていない星雲はともかく、周囲の恒星や反射星雲については色合いが不自然になりがちです。これらの色も生かしたいのなら、別途、デュアルナローバンドフィルターを使わずに撮影した画像と合成するなど、もうひと手間、ふた手間必要になります。
「SV220 H-Alpha&OIII デュアルナローバンドフィルター [3nm]」について
さて、ここからはいよいよ本題の「SV220 H-Alpha&OIII デュアルナローバンドフィルター [3nm]」についてです。
このフィルターですが、ウェブサイトによればHα線とOIII線とをそれぞれ3±1nmの帯域で透過するとのこと。スペック的には自分が所有しているOptolongのL-Ultimateに匹敵する性能で、市販のデュアルナローバンドフィルターとしては最高レベル*8と言っていいでしょう。


実際、公開されている透過スペクトルを見ると、透過率にそれぞれごくわずかに差があるものの、ほぼ同等に見えます。

(「SV220」:SV220 H-Alpha&OIII デュアルナローバンドフィルター [3nm])
念のため、以前使用した「なんちゃって分光器」で透過光のスペクトルを撮ってみましたが、たしかにどちらも同じような像で、明確な違いらしい違いは見られません。


しかし、その最大の違いはなんといっても販売価格にあります。L-Ultimateの国内販売価格が税込53000円近いのに対し、本製品は税込46380円と大幅に安価なのです。デュアルナローバンドフィルターの最大の弱点の1つはその高価格と、それによる敷居の高さなのですが、ここで7000円近くも差があるのは大きいです。これで、もしL-Ultimateと同等ないしはそれ以上の性能が出るのなら言うことありません。
……が、残念ながら東京はこのところずっと曇り空。実写はしばらくお預けになりそうなので、まずは外観だけでもチェックしておきましょう。

フィルターは、緩衝材入りの分厚いプラスチックケースに入っています。しっかりしていて安心感はあるのですが、厚さが2.5cmもあって少々かさばります。複数枚運用する場合は邪魔になりそうなので、別途フィルターケースを用意した方がいいかもしれません。

フィルター枠の厚みはねじ部分含め約7mmで、L-Ultimateと同様。特に薄枠ということはありません。また、フィルター枠にメスねじが切られておらず、他のフィルターと重ねて使うのが想定されていないのも全く同じ*9で、少なくとも外形的に両者の違いは見出せませんでした*10。ちなみにフィルターガラス本体の厚みも、実測したところL-Ultimateと全く同じ2mmでした。


一方、明らかに違って見えたのがフィルターの表面処理です。本製品では表側の反射が赤、青に分離して見えたのに対し、L-Ultimateではほぼ銀色一色。裏側は逆に本製品が銀色一色だったのに対し、L-Ultimateではやや金色がかって見えました。
こうした表面処理の違いが、例えばハロやゴースト、フレアの出方の違いなどに反映されるのかどうか……。実写比較が楽しみです。

……で、いつ晴れるんですかね?(滝汗
*1:「SV220 SII & OIII デュアルナローバンドフィルター [7nm]」については、時期的にちょうど中国の「国慶節」と被ってしまって入荷が遅れるとのことなので、また後日。
*2:系外銀河によっては、星形成活動が活発で、特定の波長が強く検出されるものもありますが、これはあくまでも系外銀河内の散光星雲由来のもので、系外銀河自体が特定の波長の光を強く発することは原則としてありません。
*4:ただし「かに星雲」の場合、ガスが高速で移動しているため、ドップラー効果によってHα線などの波長がわずかにずれています。
*5:そこが「ナロー(narrow)」バンドたる所以です。
*6:Hα & OIIIの場合、ナローバンド撮影で言うところのいわゆる「AOO撮影」(HOO撮影)に相当。
*7:もちろん、デュアルナローバンドフィルター登場前でも、カラーカメラによるナローバンド撮影は可能でしたが、わざわざR, G, Bの各チャンネルを分離、合成する手間がかかりましたし、その割に感度や分解能の面でモノクロカメラに劣っていたので、「そこまでやるなら、モノクロカメラで撮った方がマシ」という選択になりがちでした。
*8:自分が知る限りだと、あと匹敵するのはAntliaの「ALP-T デュアルバンド 3nm Hα&OIIIフィルター」くらいでしょうか?
*9:使用目的から考えて、他のフィルターと併用するシーンは考えづらいので欠点ではありません。
*10:フィルター枠の供給元が実は一緒なんじゃないかと疑うレベル。