以下の内容はhttps://hpn.hatenablog.com/entry/2025/09/09/190448より取得しました。


皆既月食

8日深夜~未明にかけて、2022年11月以来、約3年ぶりの皆既月食がありました。


ただ、今回の月食は時間帯が遅い上、翌日が平日、さらに高度が低くて観測しづらいとあって諦める手もあったのですが……やはりそこはビッグイベント。万難を排していつもの公園に出撃することにしました。


もっとも、この公園は西側が高い丘状になっていて、おまけに目隠し代わりの生垣もあるため、地平線上の見晴らしが決していいとは言えません。本影食終了時の月の高度は5°程度しかないので、最後の10~20分くらいは遮られてしまう可能性も十分あるでしょう。とはいえ、近所で見晴らしが期待できる可能性がある河川敷まで行くと、距離も高低差も倍あるのでさすがに労力に見合いません。低空に雲が湧く可能性も高いですしね……。


というわけで、出撃の算段。持参する機材は

  • ビクセン ED103S(≒SD103S II)+SDフラットナーHD+EOS KissX5+SXP赤道儀(メイン撮影用)
  • ミニボーグ60ED+AZ-GTi(経緯台運用。観望用)
  • ニコン 10×42HG L DCF+ミザール K型経緯台+マンフロット 190プロアルミニウム三脚(観望用)
  • ペンタックス K-5IIs+ベルボン エルカルマーニュ333(連続撮影用)

の4台とします。メインのカメラについては、色再現性や過去からの連続性も考えて。第一、冷却カメラを持ち出すほどの話でもないですし。


このうち、ミニボーグ60EDについては(特に、月の高度が高いうちは)天頂プリズムを使うことになるので、像は倒立鏡像になりますが……前回、このセッティングでギャラリーに観望してもらった際、欠ける方向が肉眼で見た像と食い違っていて混乱される方が多かったのを思い出しました。


「正立プリズムが要るな……」


というわけで、月食前の土曜日に秋葉原のスターベースに出かけて、笠井の「31.7mm90゜正立プリズム」を購入。

www.kasai-trading.jp




箱には"90° Prism Diagonal"としか記載がない*1上、外見も価格も同社の天頂プリズムとまったく同じなので、商品を間違えられてやしないか不安になりましたが……実機に取り付けて「正立プリズム」であることを無事確認。


これで安心して月食に臨める……ということで、防湿庫からその他必要機材を取り出していたところ……



……あれぇ (゚_。)?

www.vixen.co.jp


よ~く思い返してみれば、前回の月食終了時、全く同じことを考えて正立プリズムを買っていたのでした。まぁ、新しく買ったのは90°のものですし、月の高度によって使い分ければいいでしょう……いいよね? ヾ(@°▽°@)ノ *2


月食の経過


月食開始は1時27分と時間に余裕があるので、晩飯後に出撃。23時ごろには公園に到着し、0時ごろにはセッティングを完了しました。


月食開始まではまだ時間があったので、今のうちに1枚パチリ。




0時11分24秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/1000秒

文字通り、影ひとつない満月です。これが数時間後には地球の影に飲まれるわけですね……。


それにしても、夏の盛りはとうに過ぎたというのに猛烈な暑さです。後から調べてみたら、この夜の東京は気温こそ25℃前後だったものの、湿度が終始95%ほどもあってかなりの蒸し暑さ。熱中症についてほぼ「厳重警戒」のレベルで、やはり熱中症&脱水対策は必須でしたね。自分は水冷服を身に着けていたので事なきを得ましたが……。




0時30分46秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/1000秒

やがて0時28分から半影食が始まりますが……肉眼はおろか、写真でもさっぱり分かりません(^^;




1時00分13秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/1000秒

時計が本影食30分前を回ると、写真では月面の陰りが分かるようになってきます。それでも、肉眼だと相変わらずまったく分からないのですが……。




1時30分03秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/500秒

1時27分には本影食開始。このあたりまでくれば、肉眼でも欠けている様子はハッキリと分かります。ここからどんどん欠けていきます。




1時50分03秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/500秒



2時15分03秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/125秒

それにしても、「みるみるうちに」という言葉がしっくりくるほど、結構なスピードで欠けていきます。月食を見ていると毎度のことながら驚かされるところです。


なお、このあたりで近所の大学生がひとり、ギャラリーに参戦*3月食やこちらの機材などが興味深かったらしく、彼は結局、月食の終わり・・・・・・(「皆既月食の終わり」ではなく)まで一緒に観望していきました。少しでも興味を持ってくれたのなら、星好きのひとりとしては嬉しいところです。



閑話休題



2時25分29秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1秒

「お約束」のターコイズフリンジ。この写真では彩度のみ強調していますが、今回は影部分がかなり暗く、月面がずいぶん沈み込んでしまいました。いつもだともっと明るいし、そもそもこんなに露出かけないんですが……。




3時10分44秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出15秒



やがて皆既食の最大を迎えますが……月が本当に暗いです。写真だと、適正露出で撮るため明るいように感じてしまいますが、肉眼で見る限りは「赤い月」というよりは「濃暗褐色の月」といった感じで、空に溶け込むかのようです。


この頃には公園にギャラリーも2~3人ほど現れて、自分のカメラやスマホで写真にチャレンジする人もいたのですが、月があまりに暗いためピンボケや手ブレ写真を量産していたようです。実際、XのTLを見ても、いつも以上に撮影失敗している人の数が多いような気がします(^^;



尺度月面の様子
0非情に暗い食。月のとりわけ中心部は、ほぼ見えない。
1灰色か褐色がかった暗い食。月の細部を判別するのは難しい。
2赤もしくは赤茶けた暗い食。たいていの場合、影の中心に一つの非常に暗い斑点を伴う。外縁部は非常に明るい。
3赤いレンガ色の食。影は、多くの場合、非常に明るいグレーもしくは黄色の部位によって縁取りされている。
4赤銅色かオレンジ色の非常に明るい食。外縁部は青みがかって大変明るい。

皆既中の月の色を評価する基準としては、フランスの天文学者ダンジョンが提唱した「ダンジョン・スケール」*4というものがありますが、これで言うなら今回の月食は「1」に相当するでしょう。




【左写真】2018年1月30日22時30分12秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出4秒
【中央写真】2022年11月8日20時00分4秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO1600, 露出0.5秒 *5
【右写真】2025年9月8日3時10分14秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出4秒

実際、過去の月食と同一機材、同一露光量で比較してみると、今回の月食が明らかに暗いのが一目瞭然です。今回は月の高度が低く(食の最大時に約24度)、夏場で大気中の水蒸気が多く大気の透明度が低いため月の明るさが下がりやすいです。さらに、今年は8月にインドネシアのレウォトビ山で噴煙高さ19000mに達する大噴火があり、カムチャツカ半島でも複数の火山が噴火しているので、これらによるエアロゾルが大気の透明度を落とし、月に届く太陽の光を減らした可能性があります。

www.jma.go.jp
news.yahoo.co.jp


過去を紐解いてみると、先に挙げたダンジョンの論文中の記述によれば、1883年のクラカタウ(インドネシア)の噴火の影響で1884年10月4日の皆既月食はかなり暗かったようですし、1982年12月30日の皆既月食は1982年3~4月に起こったエルチチョン(メキシコ)の噴火の影響で。ほぼ真っ暗でした(ダンジョン・スケールで「0」相当)。1993年6月4日の皆既月食も、1991年6月のピナトゥボ山(フィリピン)の噴火の影響が残っていて、ダンジョンスケールで「1」相当の暗さでした。


まぁ、実際のところがどうなのか、検証するためのデータが手元にないので、いずれも憶測にすぎないのですが……(^^;




3時55分27秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1秒

やがて、皆既が終わって月の光が戻ってきます。




4時25分21秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/125秒



5時00分03秒 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/125秒

そして4時56分、本影食が終了。写真だとまだ欠けているように見えますが、本影に近い部分の半影がかかっているだけです。


ちなみに、時間とともに月の色がどんどん黄色っぽくなっていますが、これは月の高度が下がったことによるもの。厚い大気の層を光が通過する間に青い光が散乱されてしまうのが原因で、夕日が赤く見えるのと同じ理屈です。


空は天文薄明どころか市民薄明も始まっていて、完全に明るくなっています。撮影終了時の月の高度はこんな感じで、どうにかギリギリ障害物に遮られることなく観測を終えられました(^^;






一方、月食の過程を連続撮影していた一眼レフの方ですが……こちらは月食が始まる頃に構図を目見当で合わせ、皆既中の月が写るようF4、シャッター速度2秒で固定。タイマーレリーズを用い、3分間隔でシャッターを切り続けるよう設定して放置してました。


月食終了後にカメラを回収し、撮れた画像をPC上にて比較明合成で合成して……はい、ドンッ!




1時21分~4時55分, 3分間隔
K-5IIs+smc PENTAX-DA 17-70mmF4AL[IF] SDM, 17mm, F4.0, ISO200, 2秒


高度が下がりきるまで撮れると思っていなかった分、カメラがやや左を向きすぎて構図がアレですが、どうにか全過程を収めることができました。レンズの焦点距離が17mmと短い上、シャッター速度を皆既に合わせているので月の形は分からないかと思いましたが、案外雰囲気は出るものです。


ちなみに、最後の方は空が明るくなってきてしまっているため、単純な比較明合成では上手く重ねられません。今回はマスクを使って、明るい空の影響が全体に及ばないようコントロールしています。


普段の天体撮影では邪魔な照明も、今回は芝を適度に照らしてくれて、かえって雰囲気が出たように思います(^^;

*1:これだと、字面の意味合いとしては天頂プリズムと同じ。正立プリズムなら"90° Erecting Prism"とでも記載してほしいところ。

*2:実際、今回は40°~5°まで月の高度が大きく変化したので、途中でプリズムを90°→45°に変更することで快適に観望を続けることができました。

*3:その前にも、公園を巡回してきたガードマンたちが、機材を見て「すげぇ!」と言いながら望遠鏡を覗いていきましたw

*4:Danjon, M.A. (1920) "Sur une relation entre l'éclairement de la Lune éclipsée et l'activité solaire". C R Hebd Seances Acad Sci, 171, 1127-1129. gallica.bnf.fr

*5:操作ミスでうっかり感度を上げてしまったもの。その分露出時間を切り詰めて他と同条件にしている。




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