以下の内容はhttps://hpn.hatenablog.com/entry/2025/02/13/190901より取得しました。


月面写真とシーイング、フィルターの関係について

先日、だいこもん(id:snct-astro)さんがシーイングと望遠鏡の口径、分解能についての記事をアップされていました。

snct-astro.hatenadiary.jp
snct-astro.hatenadiary.jp


さすがに理論もしっかりしていて「なるほど」と思うことも多く、大変参考になったのですが、そこでちょこっと触れられていたのが「近赤外の撮影の優位性」について。記事に曰く、

シーイングが可視光では平均的な状態でも、近赤外なら良い部類にはいることになり、上のグラフをみてもその効果はかなり大きそうです。

「シーイングを考慮した望遠鏡の口径と分解能の関係(理論・考察編)」より)


「赤外線がシーイングの影響を受けにくい」というのは一般にもよく言われることで、特に月面写真においては効果がハッキリ出ると言います。ちょうど手元には、赤外線フィルターが付属しているQHY5III585Mが来たばかり。そこで、これを用いてちょっとした実験をしてみることにしました。


やることは単純で、EdgeHD800にこのカメラを付け、フィルターを変えながら撮影してその効果を見るだけです。


用いたフィルターは3種類、1つはQHY5III585Mに標準で取り付けられているAR Glass……いわゆる反射防止ガラス(Anti-reflection Glass)です。QHYCCDのサイトにハッキリした情報がなく特性がイマイチはっきりしないのですが、少なくともUV/IRカットフィルターではないはず。おそらくはZWOのそれと似たような特性でしょう。だとすれば特にこれといったフィルター効果はなく、材質上透過しない紫外線を除き、ほぼ全波長を素通しします。*1




2つ目はOPTOLONGの「Night Sky H-Alpha」フィルター。波長640nmの透過率が約50%、650nm以上の透過率が約95%という赤外線フィルターです。




(紫色がIR850フィルターの透過曲線)

そして3つ目が、QHY5III585Mに付属していたIR850フィルター。波長850nmの透過率が約50%、875nm以上の透過率が約90%という赤外線フィルターです。標準のAR Glassと交換して使用します。


上記記事で参照されている天文学辞典によれば、フリード長は波長の6/5乗に比例するとのこと。可視光で最短域の波長である360nmを基準にすると、フリード長は波長650nmならば約2倍、波長875nmならば約2.8倍にもなる計算で、それなりの効果は期待できるはずです。



撮影を行ったのは2月11日の夜。撮影時の地上の平均風速は、気象庁アメダスによれば北の風約2m/s、最大瞬間風速約4m/sといったところ。気圧配置としては移動性高気圧に覆われつつあり、シーイングはこの季節にしてはまずまずといったところでしょうか。


この条件下で撮影を行います。シャッター速度は5msで固定し、明るさはGainで調整しています(それぞれGain=20, 40, 69)。その結果がこちら。



上から順にAR Glass、Night Sky H-Alpha(IR640)、IR850での結果となります。こうして見るとどれもそこそこ揺れてはいますが、AR Glassでは周期の細かい揺れが目立つのに対し、赤外線フィルター2種ではややゆったり揺れているように見えます。


しかし、問題はこれが最終的な画像に反映されるかどうかです。そこで、これらの動画をAviStack2でそれぞれスタッキング&ウェーブレット処理を施し、比較してみました。なお、細部の違いが分かりやすいよう、位置を合わせてクロップ、拡大しています。



思った以上に差が出た感じです。スタッキングしたフレーム数は全く一緒で、ウェーブレット処理のパラメータも同一なのにもかかわらず、AR Glassで撮影したものは明らかにディテールが不鮮明です。それに比べると、Night Sky H-Alpha(IR640)やIR850は解像度が一段上。さらに仔細に比較すると、中央にある巨大なクレーター、バイイの中にある「しわ」など細かい部分の描写はIR850が最も優秀に見えます。


もちろん、ピント合わせの精度に差があった可能性もありますが、一応は理屈通りの結果になっていますし、総体としてはやはり「長波長ほどシーイングの影響が少なくて細部の描写に有利」と言ってしまってよいのではないかと思います。まぁ、微細と言えば微細な差ではあるのですが……。



ただし、「シーイングの影響が少ない」と言っても、惑星の撮影に使う場合は要注意。月面の場合は大気がなく剥き出しの岩だけなので、どの波長で撮ってもほぼ同じ結果が得られますが、惑星の場合、多くは大気を伴うので、撮る波長によって見えるものが違ってきます。


例えば火星の場合、赤外線では大気上層の雲が写りませんし、砂嵐に伴う黄雲も貫通してしまいがちです。木星土星も写るものがそれぞれ異なり、バンドの濃淡など可視光での観測とは様子が異なることがしばしばあります。そうした点を理解した上で使う分には問題ないのですが、「シーイングの影響が少ないから」という理由だけで漫然と使用すると、LRGB画像でとんでもない「ウソ絵」を出力してしまいかねないので、そこは気を付けなければなりません。

*1:実際、後述のNight Sky H-Alpha使用時の光量低下がさほどでもなかったことを考えれば、素通しで間違いないと思います。




以上の内容はhttps://hpn.hatenablog.com/entry/2025/02/13/190901より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14