
『10:04』ベン・ラーナー 木原善彦/訳
白水社[白水Uブックス] 2026.03.12読了
何気なくパッと開いたどのページを読んでも、それなりにおもしろく感じられる作品だと思う。ストーリーとしては確固たるものがなくて、ユーモアと皮肉と回りくどさが混じり合う文体をぼんやりと楽しむような読み方をするのが良い。タイトルはそのまま「10時4分」と読むのが正解みたい。
先日読んだゼーバルト著『アウステルリッツ』の雰囲気に近い(時折り挿入される写真がそう思わせるのかも)。また、ところどころポール・オースターのようでもありミシェル・ウェルベックのようでもある。ただベン・ラーナーは現代臭がぷんぷんしていていて、よりアメリカ的な香り、都会的な佇まいがする。何を言ってるかよくわからないという人もいるだろうし好き嫌いは分かれるとは思うが、私はわりあいに好きな方だ。あぁ、でもなんとなく体調が良い時にしか受け付けない気もする。
語り手の「僕」は、小説デビュー作で大きな評価を受ける。しかし同時に大きな病気が見つかる。そして親友の女性からは精子を提供してほしいと懇願されている。そんな僕を軸にして、のらりくらりと物語が展開する。子どもを持つということについての考察がリアリティがあった。月に一度生協の食品加工部署で働いているときにヌールという女性と話した場面や、マーラから一日ロベルトを預かりアメリカ自然史博物館に行くところが興味深かった。
この本は、昨年『トピーカ・スクール』で話題になったベン・ラーナーの長編2作目となる。本国アメリカでは若い頃から詩人として評価されてきたらしい。訳者の木原善彦さんによるとラーナーの作品は「遊歩(フラヌール)小説」と位置付けられている。エッセイや詩のようにたゆたいながら軽やかにゆれ踊いでいる印象を受けた。