
『冬の旅』辻原登
先日いしいしんじさんの『ポーの話』を読んだあとに、いしいさん関連のネット記事を読みあさっていたら、いしいさんが「辻原登さんの作品を書かれた順に全て読んだ」というのを目にした。書かれたすべての作品を読むこと自体、辻原さんのことを敬愛していることの表れだ。名前は知っていたがまだ辻原さんの本を読んだことがなかったので、立ち寄った書店で見つけたこの『冬の旅』を手にする。まさに今、極寒の冬将軍到来ということで季節感にもぴったり。
いやいや、冬の寒さどころではない。なんともキツイ、苦しい、どこまで苦難が続くのかという登場人物のしびれる経緯がてんこ盛りである。おもしろいという言葉をそのままの意味で捉えたら語弊があるだろうが、なかなかに読み応えのある作品だった。
5年間服役した緒方が出所する場面から始まる。その緒方が残りの人生をどう生きていけばいいのか。彼に光は差すのか―。服役するまでの緒方の経緯は過去に遡り記されている。餃子屋をクビになってから新たな職場「さにわ真明教」の職員となり上層部になっていく過程は、普通の会社員のそれと何ら変わりはないように感じた。
脇を固める登場人物らも過酷な生き様である。緒方と関わりのある久島常次(ひさじまつねじ)、白鳥満、鳥海(ちょうかい)ゆかり。こういった人物像も丹念に書かれており物語に一層の深みをもたらす。
罪には、到底許されないものとそうではないものがある。情状酌量というのがこれである。ひとことで情状酌量とはいえ、当事者により全く異なるし受け止め方も人によってかなり違う。憎いからではなく愛しているから相手を殺すことはあると思う。久島の罪をみていてそれを骨に染み入るほど感じたし、やりきれない思いで苦しくなる。
辻原さんの小説を初めて読んだが、文章はよどみなくお手本のように優れていると感じた。もちろん書かれている内容も深みがある。他にも幅広いジャンルの多くの作品があるようでまた読んでみたい。そうそう、全く同じタイトルで立原正秋さんの『冬の旅』があったのを思い出した。