
『ものごころ』小山田浩子
文藝春秋 2025.12.06読了
今年の2月に新刊で発売されていた短編集だ。年内には読み終えたいと思っていてようやく。物心がついたときから…という文章でしか「ものごころ」という単語を使ったことがなく、他の文でも見たこともない気がする。「ものごころ」という作品はなくて『ものごころごろ』という作品がある。それを含めて文芸誌に掲載された9つの短編が収められている。コロナ禍だったこともあって、ちょっと生きづらい世の中を生きる子どもたち、そしてそれを見つめる大人たち。
いつものように小山田さんの文章に酔いしれる。なにも起こらないというか、劇的なストーリーはなく日常のことがただ書かれてあるだけなのに、愛おしくて落ち着く。ひとつだけ『おおしめり』という作品は解説が欲しいところ。なんせ、全てがつながっていて長い長い一つの文章だけだから。しかも終わっていない!?
血を流す野良犬を追いかける小学5年生の宏とエイジのことを書いた『心臓』では、少年の心の目まぐるしく動く様がよくわかる。話す相手が対象の人物や場所を知らなかったとしても、もはや自分が知っていることは誰もが知っているということが前提のように話すエイジが微笑ましかった。エイジに憧れる宏が、少しだけ大人に近づいていく。
その宏とエイジが再度登場するのが、最後に収められている『ものごころごろ』である。受験を終えた2人の今後はどうなるのか。今はエイジと遊びたいと思う宏だけれども、かつての日々はもう戻らない、大人になっていくのはこういうことなんだとしみじみと思う。
短篇集を単行本で買うことは滅多にないけれど、小山田さんの本は特別だ。思えば小山田さんの作品を初めて読んだのはちょうど一年前位で、ほぼ全ての作品をこの一年で読んだことになる。来年も素敵な作品を心待ちにしよう。