
『踏切の幽霊』高野和明
文藝春秋[文春文庫] 2025.11.23読了
小田急線の鉄道運転士による奇妙な体験が書かれたエピローグは、迫真に迫っていて一気に引き込まれる。妻を2年前に亡くした50代の松田は、女性誌の契約記者である。編集長から心霊ネタの取材を命じられ、下北沢の踏切で幽霊らしきものを目撃したとの情報に目を付けて調べていく。ホラーというよりも、胸に迫るヒューマンストーリーだった。
私自身は心霊写真などのオカルト系をあまり信じていない。テレビ番組でそういう特集があるとチャンネルを変えてしまう。しかし死後の世界や精神世界には興味があるので、その取り扱い方というか切り口の違いによるのかもしれない。人が死んだ後はどうなるのか、霊魂はあるのか、そういったものを考えさせられた。
人間の精神の根源的な部分には、超自然の怪異を怖れる本能が潜んでいるようであった。
この一文は本当にその通りだと思うが、怖れながらも怪異に興味があるのもまた事実だ。
どうも今の時代のストーリーではないと思い読み進めていたが、これは設定が1990年代になっている。何故現代の小説なのにこんなに昔の設定になっているのかは解説を読んで納得した。著者高野和明さんが高校生の時にシナリオとして書いた『幽霊』という作品が元になっているようなのだ。そして心霊写真と8ミリ映像が重要な要素となっているので、時代背景として現代ではあり得ないのだ。確かに現代であれば心霊写真らしきものは誰でも簡単に作れるもんな。
高野さんの小説を読むのは『13階段』以来2冊目である(大作『ジェノサイド』はまだ読んでいない)。貫井徳郎さん、柚月裕子さんのような筆致で非常に読みやすかった。これは第169回直木賞候補作になったが惜しくも落選となった作品である。その時の受賞作品は垣根涼介さんの『極楽征夷大将軍』と、永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』だった。当時単行本を手に取ったとき(この文庫本と全く同じジャケットである)、これを妙に不気味に感じたのを覚えている。表紙だけで怖気を感じるとは私も単純よな。