
『宴のあと』三島由紀夫
新潮社[新潮文庫] 2025.11.09読了
雪後庵(せつごあん)という料亭の女主人・50歳になる福沢かづが主人公である。「かづ」という名前が時代を感じる。「かず」であれば今でも時たま目にする名前であろうが「かづ」は見ない。そもそも「づ」ではなく「ず」が現代仮名遣いで常用になっているからな。
都知事選を通して、政治の世界の嫌な部分をまざまざと見せつけられる。お金がモノを言う世界。何十年も前から「政治とカネ」問題が議論されているが、この頃からずっと変わっていないのだなと思う。野口よりも政治的手腕や洞察力、また演説力も優れていたかづだったが、このような結末になることがなんともやるせない。しかし、これは政治小説というよりも男女関係を描いた作品だと思う。
かづと野口が結ばれるまでの、淡い恋心を少しずつ燃え上がらせていく序盤の過程がとても良いと思った。歳を重ねた男女の、余裕を持ちつつも焦りがあるような、駆け引きも相まってしっとりした雰囲気が手に取るようだ。それでもかづには乙女心があってそこがかわいらしく思える。
実在の人物をモデルにして書かれたが、プライバシーの侵害として裁判になったというこの小説。小説の最初または終わりに「この作品はフィクションであり、実在する人物には一切関係がありません」という注釈が多く見られるが、この小説がきっかけになったとか。