
新潮社[新潮文庫] 2025.10.13読了
阪神淡路大震災後の生活(といっても直接地震を体験した人ではない)をテーマにした、表題作を含む6作品が収められた短編集である。今月から公開された映画『アフター・ザ・クエイク』の全面カバーが掛けられた文庫本になっている。映画は、蛙(クエイク)つながりでこの中の『かえるくん、東京を救う』を映像化したものなのかと思いきや、4作を融合させたもののようで、どうやって結びつけたのかが気になる。
登場人物もストーリーも異なるのだけれど、読んでみるとこれらの作品は全て繋がっているように思う。それは「震災後」というだけではなくて、宗教的なものだったり、霊的なものだったり、軽やかなエロティシズムだったり、もちろん「カエル」も。そもそも村上春樹さんは当時文芸誌『新潮』に「地震のあとで」という連作としてこれらをしたためているから、連作短編の意味合いもあるのだろう。
自分が神の子だと伝えられて育った善也が、片耳をかじられた男性を見つけて追いかけていき、自分の在り方を見つめる『神の子どもたちはみな踊る』は静謐なすがすがしさが内面から湧いてくるようで、気持ちが晴れやかになる。更年期を迎えた医師であるさつきが、タイ・バンコクで開かれた会議の後、一週間ほどの休暇をニミットというガイドと共に過ごす『タイランド』は、もっともっと自分の弱さをさらけ出していいんだ、苦しまなくていいんだと思えた。個人的にはこれが一番良かった。
村上春樹さんの短編集をいくつか読んだ中では、この本が一番優れていると思った。不器用な人間が希望をもって前を向き生きていこうと思える、そんな作品たちだった。村上さんの文体は心地良さをゆるりと堪能できる。やはり定期的に読んでいきたいと思う作家の一人だ。