
『作文』小山田浩子
U-NEXT[ハンドレッド ミニッツ ノヴェラ]2025.10.05読了
千本(せんぼん)けいすけという小学生の男の子の作文から始まる。小学校で、家族や親戚から戦争体験を聞き作文にして書くという課題。けいすけの祖父は話をしてくれなかったから、近所にいた知り合いの男性から聞いたことを祖父から聞いたことにして書いた。次に、夏目苑子(そのこ)という女の子が書いた作文、これは少し長め。苑子は祖母からの話を聞いて書いたが、より共感してもらうための脚色があった。
直接戦争を体験していない人が、人伝いに戦争のことを聞いてそれを文章にする。先生は「ウソの話は許されない」と言う。2人はお話を作ったわけではないが、自分が悪いことをしたかのように感じてしまう。
作文に嘘や脚色はいけないことなのか。確かに子どもの頃は、日記でも感想文でも正直にありのままを書いていた気がする。しかし大人になったらどうだろうか。このブログでも、会社に提出する書類でも、自分の作る文章にはなんらかの誇張や虚構がある気がする。意識はせずに当たり前のように誰もがそうしていると思う。人は成長するにつれて社会にうまく対応するのと同じように、自然と身に付ける術なのかもしれない。
2人の作文は時空を超える。彼らが大人になった今は、現実にパレスチナで起きている戦争のことにも言及されている。戦争って過去のことではなくて現実に世界のどこかで進行形で起きている。作文から始まるなんて、なかなか興味深い切り口で語られる戦争小説だった。
これからもっともっと戦争経験者がいなくなり、そう遠くない将来ゼロになる。そうなると、私たちを含めて後の世代は文章や映像によって戦争を想像するしかない。小説でもノンフィクションでも、読まれるものがあること、多少の誇張や虚構がそこにあったとしても、それは許されるものだし何より読み伝えなくてはならないと思うのだ。広島出身の小山田さんは、おそらく実際に身近な人から戦争について聞いただろう。私は2年前に広島を訪れたので原爆ドームや平和記念公園を鮮明に覚えている。だから広島に行ったことのない人よりは真実味を感じているはず。そういう意味でも広島や長崎には一度は訪れるべきだと感じる。
この新書サイズのレーベルからまた1冊。大好きな小山田浩子さんの中編小説である。新書サイズで手頃だから私の中では文庫本みたいな意識でいるのだけれど、出版社や編集者の方からすると単行本よりにみているのかなと思う。文庫本みたいに解説もない。だからといってこれが2〜3年後に(さらに)文庫化するわけはないだろうし、そう思うと単行本の過程を経ずにいきなり文庫化のようで読者にとってはコスパよく楽しめる。もしかしたら愛書家で本を集めている人にとっては残念なことなのかもしれないけれど。