
『ユーチューバー』村上龍
カタカナで「ユーチューバー」とあるのはどうも見慣れない。たいてい「YouTuber」だしそれが馴染んでいる。でもあえてカタカナにしたのは、村上龍さんのなんらかの企みがあるのかななんて。もしかしたら表紙のように縦に3列に並べることで「ー」が3つ並ぶのが視覚的におもしろみがあるという、ただそれだけの理由かもしれないけど。
お茶を販売する会社の創業者の子孫で、役員をしていた「わたし」は、ユーチューバーになるという崇高な目的のために会社を辞めた。自称「世界一モテない男」である。ウクライナのゼレンスキー大統領のことを話した最初の動画は全くうまくいかず、矢﨑健介という70歳の作家を撮ってみたいとオファーするところから物語は始まる。
矢﨑の女性観が語られる(それを動画に撮っている)が、この語りというか話す内容がめちゃくちゃおもしろくて聞き入って(読み入って)しまう。この矢﨑という作家はおそらく村上龍さんに近いのか?だとしたら相当モテたんだろうなと思う女性遍歴だ。まぁ、もちろん脚色はしているのだろうが、突飛で自由な生き様が魅力的である。
作品は4つの短編が連作になっており、元会社役員でYouTubeを撮る男性視点が2作、矢﨑の元に週1〜2回のペースで泊まりに来る50代女性のもの、そして矢﨑本人のものが1作づつある。ユーチューバーの男性というよりも矢﨑が主人公である。
タイトルの『ユーチューバー』から想像するような動画制作がどうこうというようなストーリーではなくて、矢﨑の女性への接し方、映画や音楽の話、そして思考がとつとつと語られる作品だ。乾いた文体ではあるけれど熱は帯びている、そんな感じの作品だった。以前『MISSING 失われているもの』を読んだときに結構驚いたけれど、あの私小説感とは全く違って私はこっちのほうが好き。
それはそうと、ユーチューバーって簡単になれないよな。いや、動画を上げるという行為はできるのかもしれないが、多くの人に見てもらいそれなりの収益を上げている人なんてほんのほんの一握りだろう。著名人ではなく、一般の方がどうやって数百万、数千万の利益を上げていったのか、彼らの苦労と経験を見てみたい。