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『楽園』佐川恭一|陰鬱になるけど癖になる文体、好きな作家を発見した

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『楽園』佐川恭一 ★★

書肆侃侃房 2025.08.17読了

 

川恭一さんという小説家を知っているだろうか?実は私も少し前に知ったばかりで、話題になっている『学歴狂の詩』という本に興味を持っていた。広く知られた方ではないかもしれないが、おそらく熱狂的なファンが多くいるだろう。

 

の本には表題作と他2作の短編が収められている。書店でパラパラとめくってみたらなにやら好みの文体だった。最初の『不服』を読む。癖になるこの感じはなんだろう!?ウジウジしたこの男(たぶん佐川さん本人?)は、マジで終始不服そうな口調、気持ち悪さは否めないのに、いやまぁ読んでいておもしろいのなんの。

 

い2人の子供を育てながら、思い描いていた家族の理想像と異なる現実に悩む柳瀬の日々の苦悩が書かれるのが『楽園』である。『不服』は文芸誌に載ったものだがこちらは書き下ろし作品である。

 

本的にはおちゃらけていて、皮肉とユーモアがいい具合に混ざり合った独特の口談を聞いているみたいな感じなのだが、時折りハッとするほど打ちのめされる文章に出会う。共感する部分も多い。人嫌いな自分に悩む柳瀬にとって心の支えとなったジョセフ・コーネルの存在、マイホーム購入に際して営業マンと陽子のやり取りに疎外感を感じたときに禅宗の作務になぞらえたり、コンビニのイートインコーナーに居座ったり、話が逸れて脱線していく感じがものすごく好みだ。 

 

菜と公園で遊ぶシーンなんて、滝口悠生さんの文章を読んでいるみたいで、いやしかし癖の強い滝口さんか。一方で宗教観を語るところでは高橋和巳さんのようでもある。際立った文章の一つがこれだ。忘れないようにここに記しておく。

人間はすでに乗り越えたと感じているもののほとんどすべてを乗り越えていない。大抵の場合は時の流れや年齢によって自動的に付与される役割、社会のなかで偶然得たはりぼてのような地位、偶然うまくいったすれすれの恋愛、そうしたものが何かを乗り越えたかのような錯覚を引き起こしているだけだ。それなのに、その錯覚は以前の視野をすっかり奪ってしまい、想像力をも奪ってしまう。(187頁)

途中でザ・イエロー・モンキーの『バラ色の日々』が出てきたから、もしかしてこの『楽園』というタイトルもイエモンから来ているのかなぁなんて思ったり。

 

う一つの『パークライトタワー天王寺も書き下ろし作品で、人間嫌い、いや人生になんの意味も見出せなくなった精神科に通う中年男性の叫びがリアルに書かれる。馬鹿にすんじゃねぇよ、誰しもがみんなこんな風なんだと思うよ。わかる、わかる。

 

虐的なんだけど多分佐川さんは自分のことめちゃ好きなんだろうなぁ。頭の中でこんなことを考えているんだ、と思うと佐川さん自身に俄然興味を持ってしまうやんか。ともすれば陰鬱になってしまう内容、そしてこの文体をどうしてこうも好きになるのかはわからないけど、いつか日本中に旋風を巻き起こす作品を書くんじゃないかって予感がする。

 

年の夏季休暇はこれといって大きな行事(旅行など)はなくてのんびり読書をしていた時間が多かったが、佐川恭一さんを発見できて良かった。文芸新刊の一角にこの本がなかったら(もちろん純文学に値するので配置は当然なのだが)手に取らなかっただろうから、某書店の文芸担当にはお礼を言いたい。しかし佐川さんの他の本はサブカル的でマニアックな作品が多いようなので、この純文学めいたものが気に入った私としては他の本を読めるのか、気にいるのかどうか心配になるところだが…。それにしても、まとまった休暇があっても本を読むスピードと量はほどんど普段と変わらないのはなんでかねぇ。

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