
『針女(しんみょう)』有吉佐和子
戦時下、千人針を必死になって完成させる。千人針というのは戦地に赴く兵士に捧げるお守りのようなものである。もう、祈るしかないのよ。弘一のために健気に走り回る一途な清子の姿を見て微笑ましく思うが、一方で送り出す家族の身を考えると言葉がない。本人以上に思うところは複雑であろう。
タイトルの「針女」というのは、いわゆる縫い子、お針子さんのことである。矢津清子(きよこ)は、孤児のため小さい頃から大滝三五郎が営む仕立屋で縫い子として働く。三五郎と妻のお幸から実の娘のように可愛がられて育てられた。健やかに優しい娘に育った清子は、不幸なところは微塵も感じさせない。密かに想いを寄せる大滝家の息子弘一に赤紙が届いたことから生活は一変していく。
弘一の胸の内は、物語の終盤になるまでは本人の口からは発せられない。復員する前に書き記した日記によってのみである。その日記を密かに読んでしまった清子は、苦しめられもがきながら生きていく。体に染みついた縫い子の仕事だけを頼りに人生を切り開いていこうとする姿が輝かしい。
最後こんな展開になるとはつゆほども思わず…。ちょっとお幸さん、性急すぎないか、あまりにも酷すぎないか。「なんでこうなるの」って喜劇みたくすっ転ぶくらい面食らったけれど…。これも戦争のせいかと憎らしく思う。戦地から戻ってきた弘一だけでない、戦争はあらゆる人の心をこうも変えてしまうのか。
終戦記念日の数日前から、テレビでも追悼番組や体験した方のインタビューを目にする機会が多いが、戦後80年といえどもまだまだ戦争は終わっていない、解決していないのだと思い知らされる。語り継ぐ人がどんどん減ってしまうが、戦争の小説や記録をこれからも読み継いでいくことは大切なことだ。
河出さんは有吉佐和子さんの作品を定期的に文庫化してくれて、それも有名どころではないから「こんな作品もあったんだ!」と新たな発見があり楽しい。そして読んだら有吉さんの筆幅の広さに感服しまたその完成度の高い物語に舌を巻くのだ。