
『虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ』ティム・オブライエン 村上春樹/訳
ハーパーコリンズジャパン 2025.08.11読了
オブライエンの新作を村上春樹さんが訳したとのことで、刊行してすぐに買って楽しみにしていたが結構な期間積んでいた。同じく積んでいたオブライエンの『ニュークリア・エイジ』を先に読んでから、ようやく読了した。ハーパーコリンズから刊行されているのがちょっと意外な感じ。
ボイドは地元の銀行に銃を突きつけて現金と行員のアンジーを人質に奪った。このボイドというのは、希代の嘘つき男である。そもそもボイドだけではなく、作中のアメリカではミソメイニア(虚言症)という病がはびこっている。現実を生きていても、多くの情報があり過ぎて何を信じたらいいのかわからないという人は結構多いだろう。「信じる」ということが容易にできなくて生きづらい。
大前提として「嘘をつくということはいけないこと」という概念が昨今は揺らいでいるような気がする。もちろんついたほうがいい嘘はあるものだし、一つ一つを括ることはできないが、古くからある(というか子どもの頃からきつく教えられた)観念がかなり緩んでいるという印象があるのだ。詐欺罪にならない限り、日常の嘘はなんの罪にもならないし。フェイクニュースが多すぎて何を信じたら良いのかもわからない。某大統領の発言も然り。
逃亡劇でありながら、彼らを追う多数の人物もいて、それらの場面が交錯する。ボイドを追って、ボイドは追われて、過去に何があったのかが徐々に明かされていく。場面転換に慣れてくると徐々に楽しくなる感じ。どんな小説かといわれると結構難しいのだけどロードノベルのようなものかな。
色々なものが混じり合った、リズミカルで疾走感あふれる冒険譚。まさに、現代のザ・アメリカ小説!という感じ。ぶっとんでいるけど、私としては結構楽しかった。しかしちょっと長かったかな…。好き嫌いはありそうだか、村上春樹さんが訳していることで一定の読者はついてくるだろうし、何よりも訳文を読んでいるだけで村上春樹ビートを味わえるのは美味しいかも。