
『つるかめ助産院』小川糸
突然の夫の失踪になすすべもなく落ち込んでいた小野寺まりあは、かつて夫と訪れた南の島に旅に出た。そこで出会ったつるかめ助産院の先生や笑顔あふれる人たちとの交流を通して、まりあは生きるよすがを取り戻していく。
名前が鶴田亀子だから「つるかめ助産院」っていうのがベタすぎて笑っちゃったけど。まぁ、ご利益はありそうよな。とにもかくにも、なんて優しい物語なんだろう。
現代では子どもを産むのは病院というのが当たり前だけれど、このような助産院が存在し助産師さんの協力のもとに産む人も一定数いる。昔は産科なんて存在しなくて自分たちで産んだんだよな。それに、動物なんて当たり前のように自分で産んでいるわけだし、おそらく医療の助けがなくても、本来は排泄するみたいに自然の営みとしてできる行為なのだ。
私は出産の経験がないからその壮絶さと美しさは想像するしかないのだが、小川糸さん自身も出産をしていないようだ。それなのに経験したかのようにこんな風にかけるなんて。尊い生命の誕生場面は、誰にとっても(人間以外でも)美しく感動的である。
小説の良いところの一つに、他国・過去や未来にも行けて旅するかのように冒険できるということがある。場所や時代だけではなく、登場人物に成り替わり追体験できることも醍醐味だ。だから、出産も立ち会いもなんでも経験した気になれる。これからも世代性別国の枠を超え、幅広い作品を読み、小説の中で多くの人に成り替わりたいと改めて思った。
先生のこのセリフが好きだ。
長年こういう仕事をしていると、ふと感じることがあってね。神様みたいなでーっかい目ん玉で見たら、生まれることも死ぬことも、そんなに変わらないんじゃないよかなーって。生まれる現場と亡くなる現場って、不思議なんだけどトーンが一緒なのよ。厳かっていうか、神聖っていうか。とにかく人間の手にはどうしたって及ばない神様の領域って気がするよ。(196頁)
実は小川糸さんの本を読むのは初めて。夏になるたびに各出版社では文庫本のフェアをやっていて、集英社の「ナツイチ」コーナーを眺めていたらこの本が目に入ってきた。巻末に大好きな宮沢りえさんの対談がついていたのもあって手に取ってみたが、読んで良かった。小川さんといえばの料理シーンもすごく良かった。
この小説は2013年にNHKのドラマとして放映されていたようだ。まりあを演じたのは仲里依紗さん。サミー役の中尾明慶さんとこのドラマで共演した後にめでたくご結婚されたようで、この幸せ溢れるストーリーがさらに二人の仲を良くしたのかも。嫌な奴が出てこない作品ってちょっと物足りなく感じるのに、この作品は不思議とそういう気持ちにならなかった。心からハッピーになれる小川糸さんの作品、もっと読みたい。