
『荒地の家族』佐藤厚志
新潮社[新潮文庫] 2025.06.30読了
東日本大震災から10年経ったある家族の物語である。主人公は40歳の植木職人・坂井祐治だ。震災後に妻を亡くし、その後再婚した妻には家を出ていかれてしまう。高齢の母親と息子と3人暮らし。どうして自分の人生はこうなってしまったのか。いま何を思いどう生きているのか。
坂井一家だけの物語ではない。この地に、地震と津波による被害を受けたそれぞれの家庭が踏ん張って生きている。一方で病む者、命を絶つ者もいる。時間が経過したからといって決して喪失の気持ちが癒えることはない。ただ黙々と正解がない問いかけをしながら生きること。
天災は無尽蔵に襲いかかる。ニュースを目にするたびに、どんな場所であろうとも心は痛み復興を少しでも早くと願う。しかし自分や家族親戚、友人知人など誰にも関係ない場合は、どこか遠くから俯瞰している自分がいる。どうして悪人にこの仕打ちが来ないのかと詮無いことを考えてしまう。少なくとも人口密度から考えて悪人が多いだろう都市部の人は逃れられており、自給自足でつましく暮らす人達に襲い掛かっているとしか思えなく、如何ともしがたいやるせなさが込み上げる。
第168回芥川賞受賞作である。芥川賞らしい、しかも正統派な作品といえよう。ユーモアがかけらもなくて重たいテーマであるが、「震災を忘れてはいけない」というメッセージ性が強い。風化させてはならない。多くの人に読まれるべき作品だ。
単行本が2023年1月に刊行されたから2年半も経たないうちに文庫化されたことになる。芥川賞作品だし安価な文庫本の方がより売れるからわかるのだけれど、もう少し単行本に敬意を込めてというか特別感を出してもいいんじゃないかなぁなんて思ったりもする。とはいえ作家がうんと言っているのだから仕方ないか。