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『怪物』東山彰良|混乱だらけの重層的なストーリーに飲み込まれる

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『怪物』東山彰良

新潮社[新潮文庫] 2025.05.30読了

 

の作品に関する感想は賛否両論あって、期待外れみたいな感想も結構多いのだけれど、私としてはそんなに悪くなかった。東山さんの筆さばきというか筆運びはやはり目を見張るものがあり、その語り口と表現がほんとうに上手い。佐藤正午さんもこのタイプかなと思う。

 

り手の「わたし」こと柏山康平が10年ほど前に『怪物』という小説を書いた。その主人公鹿康平は架空の人物であるが、叔父の王康平をモデルにしている。中国の諜報機関の一員だった叔父がたどった運命が、エンタメ感満載にスケール大きく描かれる。台湾現代史、特に日中戦争下の台湾の歴史を学ぶこともできる。

 

平が生きる現代パート以外に、過去、康平が見る夢のパート、それから『怪物』を加筆した作中作、この4つの場面が重層的に織りなす。その境目が曖昧なので(もちろんそれは意図されたものであるが)分かりにくい印象は否めない。いやむしろ混乱甚だしい。それなのに不思議と読み進められる。

 

平が昔書いた本の文庫化に伴い加筆修正するために、脳内でシュミレーションしたこと。その過程がこの作品の中で小説として表されているのではないか。そもそも小説自体がフィクションであり、夢物語、夢オチなんてのを著者が断言しなくてもそもそも作り物なのだからいいんじゃん?あり得たかもしれない、もうひとつの結末。それを東山さんが遊び心を使い小説の中に落とし込んだ。

 

木賞受賞作『流』は貪るように読み耽り、読売文学賞を受賞した『僕が殺した人と僕を殺した人』は味わいながらゆっくりと読んだ記憶がある。この『怪物』はそれらを読んだ時の感動には到底至らない。主人公がチャランポランな印象(特に女性関係)がありコメディのようにも思えるからか。評価がわかれるのは、東山さんの描く重厚な世界を期待し過ぎて、ガッカリしてしまうということなのかも。

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