
『夜の道標(どうひょう)』芦沢央
中央公論新社[中公文庫] 2025.05.16読了
さくさくと読みやすい。ストレスなく自然体で読み進められて「これは多くの人に読まれるだけあるな」と納得した。作品のジャンルからも連想するのか、柚木裕子さんが書くものに近い気がする。ともかく、行間を読むみたいなことがほとんどなくて、全てが文字に表されているから楽だった。ミステリーが読みたいけど、特殊設定や複雑さが全面に出ている小説はキツイなと思っている時には本当にちょうど良い。
父親から当たり屋をやらされている少年・波留(はる)、その友人・桜介(おうすけ)、過去に起きた塾講師殺人事件を追う刑事・平良正太郎、そしてスーパーに勤める長尾豊子の4人の視点で入れ替わり立ち替わりとなり語られる。彼らがどこでどう繋がっていくのか、そして一番わからないのは塾講師を殺めてしまった犯人・阿久津の動機だが、そんなモヤモヤが浸透し頁をめくる手を止められない。
阿久津のことを示すのにこのような文章があった。
嘘がつけず、相手が欲しいだろう言葉を先回りして口にするようなことはできない。
曖昧な質問だと何を聞かれているのかわからない。(250頁)
実際にこういう人はまれにいる。その人のことをどこか自分よりも下に見てしまう傲慢さが生じている。何を勝手に、その人のことを何も知らないのに、とハッとさせられた。
犯人が誰であるとかアリバイはどうとかトリックがどうとかミステリーには色んな謎があってそれを突き止めようとする過程がぞくぞくするのだけれど、やはり一番気になるのは「動機」だと思う。この部分が明かされる場面が意表をついているというか、斬新さを感じた。よくあるミステリーっぽくない。
個人的に改行が多いのはあまり好きでないし、その後どうなったのだろうと気になる人が数人いてそれが最後まで明かされていなくモヤモヤが残る部分もあるが、総じて予想を超えておもしろく読めた。そして、心あたたまるミステリーだった(これ大事)。
芦沢央さんの小説は前から読もう読もうと思っていたが、きっかけがなかった。タイトルがどうにも苦手で…(『火のないところに煙は』とか『汚れた手をそこで拭かない』など何故か苦手意識があった。完全なる個人的な意見であり、芦沢さんやファンの方すみません…)。もっと早く読めば良かったな。芦沢さんは短編が多いらしいけど、他の作品も読んでみたい。やはり「読まず嫌い」はよくない。もっと新たな作家の本を積極的に読もう。
タイトルにある「道標」は「どうひょう」と読み仮名が振ってある。「みちしるべ」が正しいというか「みちしるべ」と使うことが圧倒的に多い気がしたが「どうひょう」もあるんだ。調べてみると、音読みでも訓読みでも同じ意味の単語だそうで、こういう単語はかなり珍しいらしい。