
光文社[光文社新書] 2025.05.14読了
朝日新聞の書評欄に掲載された138冊分の書評がこの新書にまとめられている。書評は月に2回のペース。驚くべきは、書評委員会の場に編集部が選んだ100冊ほどの本がプレゼンテーションされ、そこから書評委員が入札し著者が決まるということ。もちろん読みたい本を自分で選べんで書評を書くとは思っていなかったが、選ばれない本が多くあるということ、プレゼンされて決まるということは知らなかった。
とはいえ、ここに載っている半分ほどは芸術関係の本なので、横尾さんに書いてもらう目的で推薦され選出された本も多いだろう。不染鉄(ふせんてつ)さんの絵画は生で見たいと思ったし、『グスタフ・クリムトの世界』という画集は愛でるだけでなく自身で所有したいという気持ちになった。クリムトの破壊力は半端ないよなぁ。
ピカソと10年ほど愛人関係にあったフランソワーズ著『ピカソとの日々』は一読してみたい。実際の新聞紙面での書評はこんな具合(↓)になっている。横尾さんが言うには「読むと同時に見る書評」にしたとのことで、何冊かはこんな風に紙面をそのまま載せている。それにしてもこの本の表紙めちゃくちゃお洒落で構図も完璧やん。

磯崎憲一郎さんの『鳥獣戯画』の書評では、2人の会話のようなやりとりがそのまま書かれている。本当に交わされた会話なのか?磯崎さんは、大事なことは「文章の質感」だと言う。質感って絵具みたいで、もはや絵画の世界だ。
以前読んだエッセイ『言葉を離れる』がとても良かった。横尾さんの言葉選びと文章のセンスに表現者の圧倒的な才能を感じた。だから今回も期待して読んだがやはり読み心地が良くて読み入ってしまった。紹介される本に興味を持つというよりも(数冊読みたい本も見つかったけれど)、横尾さんの語りと文体に酔いしれる。数多いる書評家の文章よりも読みたいと思わせるものがある。既読の本は3冊だけだった。
『いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝』ジャック・ドゥルワール著(国書刊行会刊)の書評で、とても光る文章があったので引用する。
「いやいやながらルパンを生み出した作家」というフレーズに僕はルブランの人生の奇異な秘密が隠されているように思う。「いやいや」に到達する境地こそ実は高いレベルなのである。ある次元に達すると嫌になるものだ。「いやいや」には自我を放下した悟性が宿る。また悟性に達しないと「いやいや」とならないものだ。ここに創造の神髄が見える。(142頁)