
『ロンドン・アイの謎』シヴォーン・ダウド 越前敏弥/訳
これは児童文学に分類されているようだ。確かに主人公テッド目線で語られる文章は、ひとつひとつの動作と感情に隙がなく淡々と易しい。しかし大人が読んでも充分に楽しめる。何よりもシンプルなストーリー、少ない登場人物、納得のいく合理的な謎解きのおかげで、なんのストレスもなく読み進められる。
観覧車に乗った人が消えたなんて。密室、そして空中という逃げも隠れもできない状態で行方不明になったテッドの従兄弟・サリムは果たしてどこに行ってしまったのか。テッドは姉のカットとともにこの難事件に挑む。
それにしてもテッドの人物造形が素晴らしい。気象予報士になる夢があるテッドは、実は自閉スペクトラム症候群だ。彼の脳は、ほかの人とは違う仕組みで動くという。テッドが大好きなふたつのことは「考えること」と「天気を観察すること」だ。ふたつが合わさった時、彼は他の人が考えつかない視点から物事を捉えることができる。
推理をするためだけではなく、生きていくうえで大切なことをテッドから教わったように思う。「モノの見方」は角度を変えるだけで違うものになる。姉とのタッグもとても良い。読後感がまた爽快で気分が良い。
表紙のイラストが観覧車に見えなかった。海外ではこういう形がポピュラーなのかしら。日本人が思い描く観覧車はだいたい4人乗りの小さめのものだが、これはもはやゴンドラのようだ。シンガポールで乗ったのがこんな感じだったかも。「ロンドン・アイ」という観覧車は実在するもので街のシンボルになっているそう。イギリスは死ぬまでに行きたい国のひとつだ。
最近新規の作家を発掘してなくて鬱々としていたからなんとなくホッとした。帯の宣伝文句にある通り、初めて読む海外の推理小説だったらバッチリ、絶対にハマると思う。海外小説に苦手意識がある人ならば読むきっかけになるんじゃないかな。残念なことにシヴォーン・ダウドさんはこの作品を発表してから2ヶ月後に47歳という若さで乳がんで亡くなってしまったそう。新しい作品を待ち望むことはできないが、この作品の続編は1冊あるようだからそれは読もう。