
『おそろし 三島屋変調百物語事始』宮部みゆき
KADOKAWA[角川文庫] 2025.04.23読了
小気味よいリズムの語り口は、時代ものといえども大変読みやすい。2ヶ月ほど前に、書店の新刊コーナーに宮部みゆきさんの『猫の刻参り』が積み上げられていた。装幀もオシャレだしパラパラめくってみるとなにやらおもしろそう。あれ、三島屋シリーズって確かKADOKAWAから出版されてなかったっけ。そう、宮部さんがライフワークとして書き続けている怪談シリーズもの。出版社が変わった疑問はさておいて、やはり最初から読むべきなのかな、せめて第1巻だけは読まないとかな、と思い早速この本を読んだ。
ある事情から実家を離れ、叔父夫婦が営む袋物屋に奉公人として住む「おちか」という娘が主人公である。叔父の提案で不思議な物語の聞き手になる役割を任されることになったおちかは、みなの話を聞くうちに、自分の身に起きたことについても少しずつ心を開くようになる。解説で「怪談による心療内科」と表されているのが言い得て妙だと思った。江戸時代の怪談ファンタジー百物語のはじまりはじまり。
人ってどうしてこうも怪談が好きなんだろう。怖い!見たくない!ってわかっていてもホラー映画を観るし、怪奇現象が特集された動画やらを見る。作り物とわかっていてもお化け屋敷に入って泣きそうになって出てくる。でも、タイトルにある「おそろしさ」はほとんど感じない。どちらかというとやり切れない哀しさ切なさみたいなものが襲ってくる。お福のこの言葉に励まされる。
「ひとつ悪いことがあっても、それがどんな悪いことでも、だからってみんな駄目になるわけじゃございません」(337頁)
宮部みゆきさんの小説は現代ものはほとんど読んでいるけど、時代ものは数冊しか読んでいない。『この世の春』は時代ものに入るのかしら?とにかくも現代小説と時代小説の中間くらいな感じでとても読みやすかった。おもしろいというよりも「上手いな」というのが正直な感想だ。さすがのストーリーテラーだ。よく出来た話だけど、めちゃくちゃおもしろいというよりも、ほど良い按配がちょうど良い。あまりにも感情移入、感動し過ぎるとちょっと疲れてしまうというか。だから、これだけ多作の宮部さんだからこそこの感じが良い。これが幅広い人たちに長く読み続けられている所以だと思う。
短編が束ねられておりそれぞれ独立した話ではあるけれど、連作短編集だからやはり最初から順番に読んだ方が断然良い。というか、そうでないと意味がわからないと思う。『猫の刻参り』から読まないでよかったな。少しづつ続きを読み進めていけばそのうち刊行スピードに追いつくかも。