
『二重葉脈』松本清張
KADOKAWA[角川文庫] 2025.04.12読了
まるでスティーヴン・キングを思わせるような表紙のイラスト。車のイラストが表紙になることは結構多い気がする(カッコいいもんな)。この作品は、過去に読売新聞に連載された小説である。清張作品にしては珍しく映像化されていないらしい。だからかもしれないけど、長編にも関わらず今回の復刊がなければ全く知らなかった。
イコマ電器が破産し会社更生法を申請したため第一回債権者会議が行われる。そんな場面から物語は始まる。イコマ電器では何年も前から粉飾決算が行われていた。それに加えて社長の生駒が横領したのではないかと噂されている。
生駒は説明をせずに逃げるように身を隠す。そんな折、退任した前役員らが同じ日に旅行に出て、1人はそのまま失踪してしまった。彼らは何を企んでいるのか?
なかなか珍しいなと思ったのが、最初のうち、秘書室長である柳田が事件を追っているところ。秘書って要注意人物というか「物言わず」みたいな謎めいたことが多いのだが、おろおろと人間臭いのがおもしろい。まぁ、途中から捜査は警察の手に委ねられ、神野巡査と塚田刑事2人の本格的な捜査が始まり警察の視点になるのだけど。
で、警察の地道な捜査というのが現代では考えられないほどの時間と労力がかかっている。今ならネットで情報は溢れ、街には防犯カメラだらけで簡単に情報が集まる。科学捜査も発展している。こんな風に全てに足をつかい、電話をし、新聞に載せて手紙をもらって、という途方もなさ…。
警察による捜査の時間が大幅に削られていることは大きな進歩だとは思うが、しかし一方では人間が「考える」ことを疎かにしてしまっている気がしなくもない。なんとなくだけど、今は犯人の方が上手(うわて)な傾向にある気がする。
堂々とそびえ立つ社会派エンタメ作品である。最後まで誰が犯人なのかがわからず、アリバイ崩しと証拠探しに読者も良い意味で振り回される。ラストはそんなに好きではないけれど、最後まで楽しめたのは確か。映像化されたら絶対おもしろくなると思う。
随筆や日記も合わせると、松本清張氏は約1,000作をも刊行したそう。とてつもない数だ。