
『彼女を見守る』ジャン=バティスト・アンドレア 澤田直/訳 ★★
早川書房 2025.04.08読了
フランス最高峰の文学賞であるゴングール賞を受賞、また日本でも「日本の学生が選ぶゴングール賞」なるものを受賞している。もうもう、紛れもない傑作だった。現代フランス文学の力をまざまざと見せつけられた。
石工見習いのミモ(本名はミケランジェロ・ ヴィタリアーニ だが、巨匠と同じ呼び方を嫌い本人はミモと呼ばせる)は、親元を離れイタリア・トスカーナ地方の街ピエトロ・ダルバで生活をする。そこには、この地を治めるオルシーニ家の令嬢で空を飛ぶことを夢見る頭脳明晰な少女ヴィオラがいた。2人は全く共通点のない世界にいたが、出会うべくして出会ったとしか思えない。互いを宇宙双生児と感じ、墓地での約束を胸に硬い絆で結ばれる。
軟骨無形成症のため身長がわずか140センチしかないミモは、小さな頃から「チビ」「こびと」と呼ばれていた。ヴィオラはミモに言う。
「あなたに、境界なんて存在しないことを示したかったの。高いも低いも、大きいも小さいもない。すべての境界線は作りごと。」(157頁)
やがて2人は離れ離れになり、何年かを別々に過ごす。私たち読者は一旦ヴィオラを離れてミモとともに芸術の世界を旅する。フィレンツェで、ローマで、時にはサーカス団にもなり。身体的なハンデを追ったミモだが、母の教えを胸に秘め、天才芸術家として名を馳せる。歳月が流れ、ミモとヴィオラは磁石に吸い寄せられるように再会を果たす。
ミモの成長物語でありながらも、芸術、友情、愛情についての壮大なタペストリーが広がるような壮大さがある。ミモとヴィオラの愛は、恋愛感情を飛び越えた何ものをも越えられない特別な愛である。こんな関係性があるなんて、人生でこのような出会いがあるだけで宝物である。
とにかく圧巻のストーリーテリングだった。最後まで飽きさせることがなく夢中になれる。しかし私がここまで絶賛するのは物語の展開の見事さだけではなく、文体から立ち昇る美しい情景や登場人物らのひたむきさに圧倒されたこともある。美しかった。素晴らしかった。
この作品は彫刻家を描いたもの。作中で「彫刻は荒々しく肉体労働を伴う芸術です」というミモの言葉から、魂を削って創り上げる芸術だと感じた。今年読んで感動した松家仁之著『火山のふもとで』は建築家を描いたものだった。彫刻と建築では異なるが、何か物を作る、モノづくりという意味では共通する。人間が何かを作り上げることは相応の感動を呼ぶのだろう。
ソフトカバーで3,000円以上するのは高価すぎると思うし、そもそもこういう気品のある崇高な物語はハードカバーにして欲しいと願うのが正直な気持ちだ。著者アンドレアさんの他の作品も読んでみたい。と思ったが、解説によると邦訳されているものはこの作品だけのようだ。扱うテーマも興味深いものが多いし、心から邦訳を求む。