
『灼熱』葉真中顕 ★
新潮社[新潮文庫] 2025.03.21読了
渡辺淳一文学賞を2022年に受賞した作品である。この賞はたまに目にするけど、集英社と、ある公益財団法人が主催する文学賞だ。調べてみると比較的新しい賞のようで受賞作の半分くらいは読んでいた。この作品は、1940年代のブラジル移民社会について書かれた小説である。
沖縄で産まれ育ち、大阪でも暮らした比嘉勇(ひがいさむ)は、差別を目の当たりにし日本では生きにくさを感じていた。だから叔父夫婦とともにブラジルに移り住むことにしたのだ。労働力のある3人以上の家族でないと移民としてブラジルに行けなかったため、当時は養子縁組をした「構成家族」なるものを作る人が多かったという。こうやって日本を離れ新たな地に礎を築くことが、ひとつ前に読んだ本でエリック・ホッファーいうところの「不適応者の情熱」なんだよなぁと改めて思う。
勇が住むことになったサンパウロ州南端の弥栄村(いやさかむら)では、勇と同じ年の移民二世・南雲トキオがいた。出逢うべくして出逢った2人は、唯一無二の親友となる。なんでも出来るトキオのことを勇は尊敬するが、一方で超えられないことに悔しさも感じる。
時が経つにつれて勇とトキオの関係に変化が生じる。志津は勇に言う。「大人になるゆうことはね、人に言えん秘密や傷を抱えることよ。傷ついとらんて強がることなあよ。傷を癒したらええの」(396頁)
玉音放送が流れ、日本は無条件降伏を受け入れた。つまり、敗戦したのである。それなのに、日本の正反対にあるブラジルでは、日本は勝利したと騒いでいた。デマがはびこり、勝ち組・負け組のせめぎあいが広がる。SNSのフェイクニュースに踊らされ、デマが真実であるかのようになってしまう現代社会をみているようだ。事実はどうであれ、人は信じたいものを信じてしまう。
クライマックスは手に汗握る展開で、頁をめくる手が止まらなかった。トキオ、どうなってしまうの、勇、どうにかして思い留まれないの、って。
葉真中さんの作品を読むのは2冊めだ。『Biue』を読んだときには「まぁこんなものかな」と、読みやすいとは思ったけれども特段深い感想を抱かなかった。しかしこの『灼熱』は良かった。タイトル通り焼けつくような熱意が物語からも著者からも感じられて、充実した読書ができた。骨太なのに読みやすく誰にでもおすすめしたい作品だ。