
『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』エリック・ホッファー 中本義彦/訳
作品社 2025.03.17読了
東京都品川区・東急東横線不動前駅 に「フラヌール書店」という独立系書店がある。書籍の多さからどうしても大型書店に行くことが多いのだが、独立系書店も応援している。このフラヌール書店は2回ほど訪れた。書店の佇まいや選書も好みで、何よりブックカバーがとてもかわいくてそれが欲しいがために行ったというのもある。レジでの会計時以外で話したことはないが、店主・久禮(くれ)さんがおすすめしている、というか自分を育てた本として紹介されていたのがこの自伝だ。
エリック・ホッファーの人生は数奇である。こんなにも波乱に満ちた生涯があるだろうか。まず、5歳の頃に失った視力が10年後に回復するという現実とは思えない奇跡。母親も父親も失い天涯孤独になったホッファーは、放浪の人生を歩む。
何よりも彼のすごいところは、独学で学んだことである。州立無料職業紹介所から日雇いの仕事をもらいながら、絶え間なく読書をして、数学、化学、物理、地理の大学の教科書を読んだ。言葉を使って物事を描き適切な形容詞を探した。私たちが当たり前のように親から言葉を得て、学校で学びのための基礎を教わったというのに、一人だけでこれがどうしてできるだろう。
目から鱗というか、こんな考え方があるのかと感銘を受けたのが「弱者が演じる特異な役割こそが人類に独自性を与えている」ということ。弱者、つまり社会に適合し得ない者たちが持つ固有の自己嫌悪は、通常の生存競争よりもはるかに強いエネルギーを放出し、特別の適応を見出させるという。開拓者のほとんどは、こうした人たちだったのだ。何故なら、財を成した者は腰を落ち着けてしまうから。「不適応者(ミスフィット)」の情熱こそが、世界を、歴史を動かしている。
また、巻末のホッファー72歳のインタビューにおいて、ホッファーは「有意義な人生とは学習する人生のことです。自分が誇りに思えるような技術の習得に身を捧げるべきです」(167頁)とあったのが心に響いた。幸せかどうかではなく「有意義かどうか」を考える人はあまりいない。
自伝とはいえ、ホッファー80年の生涯のうち40歳位までのことしか書かれていない。このあと彼は「沖仲仕(おきなかし)(耳慣れない言葉であるがこれは港湾労働者のこと)」となり思想家となる。ベストセラーだったこともあり、この本やホッファーの存在自体は知っていた。しかし彼の本を読んだことはない。『大衆運動』『波止場日記』など、邦訳されているものも多いから読んでみたい。