
『ゲーテはすべてを言った』鈴木結生
朝日新聞出版 2025.02.27読了
第172回芥川賞受賞作である。安堂ホセ著『デートピア』と同時のため2作が選出されたことになる。先に『デートピア』を読んだのは、『ゲーテは〜』を書店でパラパラめくったときに、引用がものすごく多くて学術書みたいで小説感がないな〜と思ったからだ。でも良い意味で期待を裏切られた。知識欲に突き刺さり、個人的に好きなタイプの作品だった。
端書きを読むだけで、著者の文章の上手さが伝わってくる。鈴木結生さんはまだ大学生だというが、落ち着いた文体とリズミカルさが融合していてすでに才能の片鱗を見せている。文章だけではなく、このような構成と関連性、巧みなストーリーを作り出す弱冠23歳の頭の中は才能に溢れている。デビュー2作目でいきなり芥川賞を受賞してしまうんだから本物よな。
ゲーテといえば『ファウスト』がすぐに思い浮かぶが、実際にこれを読み切った人は少ないはず。現に私も読んでいない。4年ほど前に『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』を読んだだけ。結構読みやすくて驚いたものだ。ゲーテというと格言みたいなものを目にすることが多々あり、それがこの作品の肝にもなっている。
ゲーテの文学者である博把統一(ひろばとういち)は、家族で食事をした時に何気なく見た紅茶のティーバッグに目を留める。ゲーテのとある名言があったが、専門家の自分が知らないものだった。果たしてこれは本当にゲーテの言葉なのか?ここからゲーテの言葉の出典をめぐる飽くなき探求が始まる。
「済捕」という漢字に「スマホ」というルビが振られている。これには驚いた。元々こういう単語が当てられているわけではなく、鈴木さんが作った造語だそう。
文化的でアカデミックな会話が飛び交うこの家庭が素敵だ。ゲーテの言葉が本当にゲーテのものだったのかは読んで確かめてほしいところだが、何よりもこの小説では探究の過程が抜群におもしろいのだ。
言葉はどれも未来へ投げかけられた祈りである。
この文章に私たち言葉、文章を愛する者は静謐な想いを寄せる。
鈴木さんは年間1,000冊もの本を読むというのを何かの記事で読んだ。1日に2~3冊って物理的に難しいのではと思うけれど、学生の彼なら有り得るかも。それにしっかり咀嚼していてものすごい勢いで身につけている。次にどんなものを書くのか楽しみだ。
私も普段の会話で「ゲーテ曰く、、」って使ってみたい!