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『更生記』佐藤春夫|すこぶる贅沢な静かな探偵ものをどうぞ

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『更生記』佐藤春夫

春陽堂書店春陽文庫] 2025.02.10読了

 

藤春夫さんの『更生記』を読んだ。イメージはなかったが佐藤さんは探偵ものが好きで何冊か出しており、これもその一つだ。純文学作家が書いた探偵小説はすこぶる贅沢だった。期待してなかったけどかなり良かった。こんなにおもしろいならもう向かうところ敵なしだ。

 

場という男子学生が、ある夜線路にうずくまる若い婦人を見かけた。自殺をしようとしていた彼女をなんとか思いとどまらせようと、まずは自宅に連れて帰る。同居の姉とともになんとかしようとするが彼女は頑なに何も語らない。大場は、大学の教授で精神医学を専門とする猪俣助教授に相談した。彼女の心因性ヒステリーを精神医学の分野から「更生」させるストーリーである。

 

「はい」の意味で使われる「ええ」というのが、ここでは「え」だけだから、最初は、驚きまたは質問のような意味合いかと勘違いしていた。しかし文脈からするに明らかに「ええ」なのだ。当時はこういう省略が主流だったのだろうか。それとも佐藤さんならではの言い回しなのだろうか。

 

はり文章が上手く突出している。芸術的であると言えよう。淀みなくすらすら読めるというだけでなく、人間心理の葛藤表現にうっとりするのである。特に、須藤が濱地の冷淡な笑みを見た時の描写には心を抉られた。

 

俣は辰子(自殺しようとした女性)への思いを「最初は単に好奇心であった。次には学問的興味であった。それから人としての多少の同情であった。それが今ではどうやら自分自身の苦しみの一部分になってしまった」(247頁)と自己の心理変化を分析している。確かに読んでいて、猪俣には最初の方は滑稽さがあったし、探偵気分をどこかで楽しんでる風があったように思う。それがいつの間にか真摯に真剣に向き合うようになる。猪俣だけではないが登場人物の心理変化が存分に表現されている。

 

漱石作品を読んでいる気分になった。あんなに古文的な感じはなく文章は読みやすいのだが、流れている時間の速さというか、当時人物たちの心持ちのありようなど、漂う雰囲気が似ているのだ。結構まどろっこしいというか、ストーリーの展開は緩やかなのだが、読ませる力は図太く脳髄に突き刺さる。血も流れない、警察もほぼ関与しない、人間の心理的なものだけでこれだけのミステリー仕立てを仕上げる力量には敬服する。

 

中に濱地という精神を病んだ人物が出てくるのだが、彼にはモデルがおり天才作家島清次郎だという。実際にこのような事件を起こしたそうで。「島清恋愛文学賞」でお馴染みのあの島清か〜。佐藤春夫さんと思われる人物も登場していてそれも興味深い。そういえば島清の作品を実際に読んだことないよな。

 

春陽堂書店というのは、本社が銀座にある古くからある出版社らしい。ここ最近「探偵小説篇」として何冊か刊行されており、それがひときわ目を惹くのは、装画が横尾忠則さんであるからかもしれない。にしてもこのシリーズ、他の作家の作品も興味深い。

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