
『義とされた罪人(つみびと)の手記と告白』ジェイムズ・ホッグ 高橋和久/訳
元々国書刊行会から出された本のタイトルは『悪の誘惑』であったが、邦題が変わったみたい。というか『義とされた罪人の手記と告白』というのが本来のタイトル(直訳)のようだ。それにしても表紙の写真のグロテスクで怖いことよ。何度か目にしたことがあるこの画はウィリアム・ブレイクの作品。普段本はカバーをして持ち歩いているが、これが手元にあると思うだけでなにやら怖気を感じるわい。そしてそして、この小説自体も恐ろしかった。。ホラーというわけではないが内面に忍び寄る恐怖。
作品の構成としては、第1部が「編者より」、第2部で「罪人の手記と告白」、そして第3部で「再び編者」に戻る。
第1部では、ある一連の事件に関して、編者が史書や裁判所の記録、口承などを調べて知り得たものが綴られている。一連の事件というのはこうだ。スコットランド・ダスカースルの領主コルヴァンの結婚により、ジョージとロバートという2人の男の子が産まれる。信仰心の薄い父と強い宗教観の妻は最初から仲が悪く、2人の息子は別々に育てられた。のびのびと育った明朗な兄ジョージと、厳格な母親により宗教的狂熱の虜となった弟ロバート。やがて出逢った兄弟の確執は、恐ろしい悲劇を生むことになる。
第2部は、弟ロバート自身の独白になっている。これがもうなんのこっちゃで、悪霊に取り憑かれたかのような思想と行動。第1部ではロバートの身勝手な行動と思っていたのに、第2部を読むと深い信仰心からの行動だったのかと読める。しかし自分の都合の良いように考えすぎなんじゃ…と、第1部の編者の内容と異なる部分も結構あって何を信じて良いのやらわからなくなる。何より恐ろしいのは悪魔のような人物が登場することだ。ひえ~~。ロバートに影のようにまとわりつく存在は分身なのか、悪魔なのか。
「神に選ばれたものは決して過ちを犯さないのだろうか、そして選ばれたものに対する聖書に記された約束は、どんな場合もどんな状況でも変わらないのだろうか」(223頁)
というひとつの疑惑をロバートは持つ。これがこの作品の主題である。考えながら読んだけれど、ちょっと難しい。その人がそう思えばそれが真実になってしまうようなところもある。その後短い第3部でまた編者の客観的な考察に戻る。
読む前は、話が入り組んでいそうで疲れそうだと思っていたのだが、存外わかりやすく何よりおもしろかった。途中、他の方の書評の力も借りながら読んたのも理解の助けとなった。しかし一体この作品はなんなのだろう?不快感というか纏わりつくような恐怖感が読み終えてからも抜けない。結局真相は藪の中的な感じで、悪魔が本当にいたのか、はては何もかもロバートの精神が生み出した幻想だったのか、読者に委ねられている。答えはたぶんないんだろうな。
今書かれたものだとしても、斬新で突出してるように感じる。これが1824年という200年も前に生み出されたというのが到底信じ難い。アラスター・グレイ著『哀れなるものたち』はこの作品に触発されて書かれたようで、確かに雰囲気は近いかも。読んだことを絶対に忘れない作品になったのは確か。
ひとつ前に読んだ本が傑作だったから、次に読む本は何を選んでもピンとこないだろうなと思っていて、現代ものではなく古いゴシック小説を選んだ。ここまでぶっ飛んだ作品だったからある意味良かった。