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『火山のふもとで』松家仁之|こんな本に出会えることが格別幸せなんです

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『火山のふもとで』松家仁之 ★★

新潮社[新潮文庫] 2025.02.05読了

 

店を訪れる頻度はかなり高くて、いつも文芸の棚辺りをうろいているのに、松家仁之さんという作家のことを知らなかった。この『火山のふもとで』がデビュー作で、いきなり読売文学賞を受賞。読売文学賞ってかなりおもしろく好みの作品が多い。早速読んだら、ため息がでるほど素晴らしい小説だった。

 

み始めて数ページでこれはすごいと確信、鳥肌がたちそうになる。なんと美しく芳醇な文章なんだろう。帯にある「すべてが美しい」というのが誇張でも宣伝文句でもなく本当にそのまんま。愛でるようにゆっくりと文体を味わう。読み終えたくないと思わせる作品ってこういう本だ。3日間、ゆっくりと時間をかけて極上の読書を楽しんだ。

 

り手である「ぼく」・坂西は、尊敬する建築家・村井俊輔先生に教えを乞いたいと村井設計事務所に入社することが叶う。南青山にある事務所とは別に、夏の間だけ仕事をする「夏の家」が北浅間(軽井沢にほど近い)にある。そこで自然の営みを肌で感じながらコツコツと仕事を進めていく。先生、所員たちが奮闘するのは、国立現代図書館の設計である。これは一つの設計所に依頼があるのではなく競技形式であり、競い合うもの。

 

荘のように数か月だけまるっと移動して仕事をするというスタイルがとても贅沢だ。環境を変えることで1年間の仕事にメリハリがつくし、普段都会に勤務しているほど、自然のなかに身を置くことで心を清められる気がする。これができないからみんな(自分もそうだが)休暇に温泉とか人が少ないところに旅行に行きたくなるのだ。元々自然と共に働くスタイルの職業であればいらないのかもしれない(逆に2か月間都会で働くとか余計にストレス溜まりそうよな)。

 

築のことなんて私自身素人だし特別興味を持っているわけでもないのに、松家さんの文章を読むと自ずと前のめりになり、知りたい読みたい感じたいという欲求が膨れ上がる。先生のこの言葉に感動した。

「うまくいった家はね、こちらが説明するときに使った言葉をクライアントが覚えてくれていて、訪ねてきたお客さんに、その言葉で自分の家を説明するようになる。われわれ建築家の言葉がいつしかそこに暮らす人たちの言葉になっている。そうすれば成功なんだよ」(65頁)

設計図を説明する文章を読んでいるだけで、空間や材質、使う人を想像するようでこれもまた楽しかった。谷崎潤一郎著『陰翳礼讃』を彷彿とさせる。無性に図書館に行きたくなった。本だけでなくてその空間を建築を、肌で感じたい。

 

計のことのみならず、北浅間の自然描写が細やかだ。特に鳥類に関しては文章を追っているだけで鳥のさえずが聞こえてきそう。澄んだ空気に聞こえる鳥の鳴き声とバサッとした羽ばたき。それから、先生の姪である麻里子と「ぼく」の、恋愛模様が緩やかに進展していく。この先どうなるのだろう?と少しだけミステリータッチもある。結局、私がこうあって欲しいという形に最後収まっていたのが嬉しかった。

 

っと読んでいたい、読み心地が良い文体というのはどうして生まれるのだろう。なにが読者をそんな気持ちにさせるのか。物語の内容だけではなく、文体にこもった優しさ、丁寧さ、ふと感じる安らぎ、馳せる想い。本を読めば読むほど、不思議とストーリーよりもこうしたものを欲するようになる。

 

新潮文庫の独特の字体も一役かっていると思う。古いとか新しい版だからではなく、新潮文庫は作品によって字体が異なる。タイプライターで打ったようなちょっとゴツゴツとした、でも柔らかいこのフォントが私は大好きだ。あとに出てくるが新潮クレスト・ブックスで使われるフォントに近いかな。堀江敏幸さんの小説もこのフォントだと思う。あ、堀江さんの本を読んだ時の感覚に近い!堀江さんほど詩的ではないけれどほっとする感じ。

 

家さんは新潮社に勤めていた方(すでに退職)で、なんと新潮クレスト・ブックスを創刊した方のようだ。大学在学中に何かの文学賞は取ったらしいが、結局新潮社に就職し編集長にまで上りつめた。早期退職をしたのは「書きたい」という気持ちがあったからなんだろう。今月、来月と松家さんの別の作品も文庫本で刊行されるらしいし、なんと『火山のふもとで』の前日譚である作品も刊行間近らしく超絶楽しみ。

 

にもかくにも文庫本のたった900円ぽっちで、こんなにも読書の楽しみを味わえるとはなんて幸せなんだろう。格別の思いだ。そして、去年の終わりに読んだ水村美苗著『大使とその妻』もそうだったけれど、軽井沢熱がさらにさらに高まっている!

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