
『富士山』平野啓一郎
新潮社 2024.11.09読了
普段短編集を単行本で買うことはあまりないのだけれど、一部のお気に入りの作家のものは手に入れる。つまり、平野啓一郎さんもお気に入りに入っているということ。手元に置きたいと言うよりも、文庫になるのを待てず早く読みたい衝動に駆られる。
人は誰でも「あの時こうしていれば」とか「あの判断のせいでこんな風になってしまった」「あと少し早ければ」と悔やんだりする。生きるということは選択の連続だと何かの小説に書いてあって、それが常に心の中にある。「あり得たかもしれない人生」や「パラレルワールド」をテーマにした作品群でなんとなく白石一文さん風な感じがした。
収められている短編は5作である。一番気に入ったのは表題作である『富士山』だ。マッチングアプリで知り合い交際をはじめた男女のすれ違い。女性の心の機微が手に取るようにわかる。年齢を重ねてからはじめて出会う人に対して「本当に信じるに値するのだろうか?」と迷いあぐねる心の葛藤が、行動を制御してしまう。素直な心がなくなり疑いを持ってしまう不安定さが上手く表されていた。
10年ぶりの短篇集とのことだが、私は平野さんの短編を読んだことは1~2作しかないいと思う。新潮文庫に確か短篇集が1冊あったような気がする。それにしても、思いの外すらすらとあっという間に読めてしまい、今までの中で1番読みやすいように感じた。何度か読み返さないと理解できないくらいの文章が混ざっている方が好みではあるのだけれど。短編だから仕方ないのかもしれない。なんとなくそのうち映像化もされそうな。