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『フルトラッキング・プリンセサイザ』池谷和浩|現実と仮想空間のきわ

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『フルトラッキング・プリンセサイザ』池谷和浩

書肆侃侃房 2024.07.06読了

 

イトルの意味もよくわからないし、ことばと新人賞なるものも知らないし、著者の名前も初めて見る。それなのに手にしたのは、帯の滝口悠生さんの名前のせいだ。どんなものであれ彼がすすめるものには耳をすましたくなる。触れたくなる。そして「ことばと新人賞」というのは、最近陰ながら応援している書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)という出版社が主催する文学賞であった。

 

のまどろっこしさはなんなんだろう。冒頭の段落を読んでまず感じた。こう思ってこれをして何それをした、としつこいほどの細かい描写が続く。しかしこれが段々と癖になってくる感じ。ちょっと宇野常寛さんの文体に近いかも。

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いたいこの「うつヰ」というのが男性だろうと疑いもせずに読んでいたら女性だったことに驚いた。そもそも男性らしい、女性らしいというのを、読んでそう思うのは何を理由にしてなのだろう。思考や行動、言葉遣いなのか、職業や立場からなのか、もしくは著者が男性(女性)だからそうと勝手に思ってしまうのか。最近の小説では性別の勘違いがままある。ジェンダーレス化する現代に読み手の私が置き去りにされている。

 

人公はもちろんこのうつヰで、彼女は映像制作の仕事を終えて帰宅したらバーチャル世界に飛び込む。これが「プリンセサイザ」である。そこでうつヰは京王線沿いの女王たちと交流する。現実と仮想空間の世界のきわが曖昧で、どちらの世界にいるのか途中からわからなくなる。もしかしたら、どちらの世界もそんなに大した違いはないのかもしれないと感じた。

 

題の作品以外に『チェンジインボイス』『メンブレン・プロンプタ』という中短編が収められている。どちらもうつヰの物語だ。著者の池谷さんはデジタルハリウッドという会社の執行役員として大学事業を統括しているらしい。クリエイターを養成したり、オンラインセミナーを開いたり、デジタルの世界を広げて活用する、そんな仕事をしている池谷さんだからこそ書けた、そんな小説だと感じた。

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