
『台北プライベート・アイ』紀蔚然(き・うつぜん) 舩山むつみ/訳 ★
文藝春秋[文春文庫] 2024.06.20読了
単行本刊行時から気になっていた本がついに文庫本になり早速ゲットした。どうやら第二弾が刊行されたのでそれにあわせてこの第一弾が文庫化された模様。個人的に好みのタイプの作品だったこともあるが、かなりおもしろかった。さすが本国でもロングセラーであり多くの国で出版され、日本でも大きな賞を受賞しているだけのことはある。直木賞を取ってもおかしくないようなレベルだ。
人気劇作家であり教師でもあった呉誠(ウー・チェン)は、色々なことに嫌気がさしていきなり探偵になる。タイトルの「プライベート・アイ」とは、私立探偵のことだ。帯にハードボイルドとあるけれど想像するそれとはちょっと違う。チャンドラーに代表されるような、いわゆるカッコいい探偵が出てくるようなハードボイルドではない。ちょっと癖のある呉誠は、酒癖が悪く一見関わりたくない人。私立探偵になったのも、酒でやらかしてしまったことが一番の原因。
連続殺人事件に巻き込まれて、それを解決していくのがこの小説の大きな柱となっている。冤罪といえば、先日最終回を迎えた『アンチヒーロー』もそうだし、つい最近TV番組『アンビリーバボー』でも取り上げられていた。普通に過ごしていても巻き込まれる可能性があり、誰にでもあり得ることなのだなと改めて思った。実は私自身大学は法学部で、ゼミも「犯罪心理学」なるも取っていたのだが、最近妙に法廷ものが気になる。
メインの連続殺人よりも、私としては呉誠の来歴や初めて受けた依頼のほうが楽しかった。呉誠はパニック障害とうつ病を発症していて長らくこの病に悩んでいる。自己分析をしながらよりよくする方法を探る彼のことを応援したくなる。第一印象ではあんまり関わりたくないと思わせる人物だが、徐々に愛くるしく感じられて読み終わる頃にはなんかホッとする人で、側にいたくなる。
連続殺人犯ランキングではアメリカが1位、イギリスが2位だという。つらつらとした考察がまたおもしろい。アジアでは日本がダントツ1位だそうで、行列に並ぶ文化があるほうが連続殺人犯は多いそうだ。そして日本の宗教観、我慢や抑えの美学がとうとうと語られる。
呉誠は、台北を「人をムカつかせる、だが愛しくて離れがたい都市」と表現する。作中には台北の街並み、人々の暮らし、が生々しく息づいていてこの情景を感じるだけでも楽しくなった。台湾の作品を読むたびに、無性に台湾に行きたくなる。10年以上前に行った時とはずいぶん変わっただろうな。
一つ前に読んでいたのが『サラゴサ手稿』だったからか、めちゃくちゃに読みやすくて、というかストーリー性が抜群で、小説ってこんなにも起伏があっておもしろいんだ、と単純に読書時間が待ち遠しい日々を過ごせた。舩山むつみさんの素晴らしい訳によるところも大きいと思う。都内のいくつかの書店でトークショーやらが少し前に開催されていたみたいだが、手遅れだった。第2弾を単行本で買うか文庫まで待つか、考え中なり。