
『私の名前はルーシー・バートン』エリザベス・ストラウト 小川高義/訳
早川書房[ハヤカワepi文庫] 2022.7.24読了
2年半くらい前に、1週間弱の入院をしたことがある。手術も入院も初めてのことだったから、不安と心配との連続だったけれど、終わってみればあっという間だった気がする。入院中は独りで心細くもあった。本を持っていったのに、ほとんど読めなかった。入院している姿なんて誰にも見られたくないとは思っていたものの、お見舞いに来てくれた家族や友人には感謝しかない。
主人公ルーシーは、盲腸が元で原因で入院をする。しかし入院は9週間と長引くことになった。そこに何年も疎遠だった母親がお見舞いにやってくる。母親が病院にいた5日間の2人の会話から、過去の想い出を回想しながら綴っていく構成である。入院時を振り返るのも、またルーシーの思い出だ。語るルーシーはいま一体何歳になっているのだろう。
母と娘の関係がどんなだったのかは2人の会話と回想から徐々に炙り出されてくる。小さな頃に理解できなかったことも、ルーシーが大人になって初めて気付くことが出来て、それを母親も口にはしないけれど喜んでいる。そんなような、言葉にしなくても分かり合えることが小さなエピソードで散りばめられている。
ルーシーは物書きを生業としている。作中でルーシーはこう語る。きっと著者ストラウトさんがそう思っていたんだろうな。とてもいいからそのまま引用する。
ハイスクール時代になっても、暖かい校内で宿題を終えてから本を読む習慣は続いた。読めば得るものがあった。そういうことを言いたい。私の孤独がやわらいだ。そういうことを言いたい。そして私も作家になって人の孤独をやわらげたいと思った!(31頁)
去年読んだ『オリーヴ・キタリッジの生活』で、エリザベス・ストラウトさんの大ファンになった。今回の作品でも、私が大事にしている読み心地の良さと静謐な佇まいは健在である。こういう本がたくさんの人に読まれると良いなぁと思う。
入院生活は日常とは異なる。誰でもが経験することではないだろうが、普通の生活では感じることができない感情を抱くのは確かだ。私は、自分自身が少し強くなれ、そして人に優しくなれるようになった。物理的な病の根絶は別にして、精神的にもたらされたものは大きい。きっとルーシーもそうだったに違いない。