
『感情教育』上下 ギュスターヴ・フローベール 太田浩一/訳
光文社古典新訳文庫 2021.12.18読了
昔、フローベールの『ボヴァリー夫人』を読んだときに、実はそんなにおもしろいと感じなかったので彼の作品はあまり積極的に読もうという気がおきなかった。それでも、大好きな書店で「フローベール生誕200周年記念フェア」をやっていたので書店に投資する意味でも手に取ってみた。
フランス・パリ、2月革命前後の時代が背景である。タイトルに副題として「ある青年の物語」とあるように、この小説はフレデリックという1人の青年の恋愛模様を中心とした歴史絵巻と言える。
同乗した船でフレデリックが一目惚れをしたのは、アルヌー夫人。その出会いから、直接関わり合うようになるまで3〜4年もかかるのだが、夫や子供がいる女性のことを一途にこんなに思えるものなのだろうか。まだわずか18歳の青年にとって他の誘惑もたくさんあるはずだ。
アルヌー夫人に加えて、銀行家の妻ダンブルーズ夫人、高級娼婦ロザネット、同郷のルイーズという女性が登場しフレデリックの人生に彩りと迷いをもたらす。優柔不断なフレデリックだが、本当に欲していたものは何だったのか。もしかしたら本当に手に入れたいものは晩年にならないとわからないのかもしれない。
訳者の太田さんの前書きによると「第1章・第2章はまだるい印象を受けるかもしれないが、しばらくは辛抱強く読んで欲しい」とあるように、確かに上巻はだらけてしまい、正直しんどかった。でも、前置きにそうあったから、そんなものかと、後半がおもしろくなるはずだと期待を込めて、なんとかなんとか読み進めた。
下巻に入ると第3章・第4章に入る。太田さんの言うように第3章に入ると俄然おもしろくなるし、フレデリックの周りで動きが多く、感情がうごめく様が読んでいてありありと浮かび上がる。他の章が淡々と感じてしまうのは、フローベール氏の単調な筆致のせいかもしれない。感情教育という割には「感情」表現が乏しいのだ。
解説によると、フローベール本人が「おもしろい本にならないかもしれない」と言っているのだ。おもしろい小説を書こうとしていなく、フレデリックのありのままを書こうとしているのかもしれない。ドラマチックな展開は人生でそんなにあるはずもなく、それがリアルなのだし。
他のお気に入りの作家に比べると、私にとってフローベールは絶対的な存在というわけではないが、『三つの物語』と『サランボー』だけは気になるのでそのうち読むつもりだ。
光文社古典新訳文庫のシリーズは読者にとても親切だ。訳注が本文と同頁にありたやすく読める(何しろ本の巻末にある注釈を開くのが大嫌いなのだ)し、フランスの当時の道具や乗り物、建物についてのイラストや写真が所々に盛り込まれていてわかりやすい。ただ、このレーベルお馴染みの表紙のイラストは、、上巻の柄はちょっと気持ち悪いような…。