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『暗黒の瞬間』エリーザ・ホーフェン|罪と罰との向き合い方が変わる

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『暗黒の瞬間』エリーザ・ホーフェン 浅井晶子/訳 ★

東京創元社 2026.03.09読了

 

新な角度から書かれたミステリーである。単なる法廷ミステリーではない。人間の内面にある解決不可能なものを浮かび上がらせ、読者を驚愕させ溺れさせる。何が正しいとか間違っているとかではない。法と正義とは、罪と罰とは何なのか。

 

のすごくおもしろくて夢中になって読んだ。物語として優れているのはもちろんだが、私としては何より構成がカッコいいと感じた。久しぶりにミステリー作品で★をつけることができた(★は、超個人的良かった・感動した・好きのマーク)。

 

ルリンに住むエーファは、長年携わった弁護士の仕事を退く決断をする。今までに携わったいくつもの事件のなかから特に重要な事件を回想するという形での連作短編集になっている。全ての短編が極上キレキレで、どれひとつとして未熟な作品はなかった。特に印象深かったのは『生かしておく』『塩』『強姦』である。真実を追い求めるのではなく、法の裁きを与えるために被害者らが改ざんのようなことを図ったり、弁護士が被害者に手を貸したり…。

 

護士の使命は、罰を避けること、依頼人が刑務所に行かずに済むようにすることではない。罪を犯した者の心の重荷を罰が取り除くことがあるのをエーファが理解したとき、物語の形相だけでなく自分の中での罪と罰への向き合い方ががらっと変わるようで鳥肌が立った。本当の意味での優秀な弁護士とは何だろうと考えさせられた。

 

ーファの視点で語られることがほとんどなのだが、時に被害者、または加害者の目線でも語られる。どんな犯罪者でも、99%は普通に過ごしている。ほんの小さな決断、ほんの一瞬の出来事、つまり「暗黒の瞬間」がその人の人生を狂わせかねない一瞬となる。それを許せるか許せないか、法的に赦されたからといって心はどうなのか、なんてことをつらつらと堂々巡りになりながらも考えさせられる。

 

の終わりに所々名前が出るシュテファン・ハインリヒって何者だ!と気になって仕方ない。目次には最後の章にその名前が付けられているから、最終的にこの事件のことが明らかになるんだろう。エーファの過去に何があったのか、何故ここまで彼女は依頼者に深入りするのか、この謎が否が応でも頁をめくる手を止めない。  

 

ーラッハと比較されているみたいだけど、私はシーラッハよりも断然おもしろいと思う!著者のホーフェンは現役の法学者でザクセン州憲法裁判所の裁判官も務めているという。だからこんなにもリアリティがあるんだ。ヒリヒリするサスペンス、知的興奮を味わいたい人におすすめだ。

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『夜空に浮かぶ欠けた月たち』窪美澄|人生に喜怒哀楽は全て必要

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『夜空に浮かぶ欠けた月たち』窪美澄

KADOKAWA[角川文庫] 2026.03.07読了

 

「人間は完全な丸じゃないし、誰だってどこかが欠けているもの」(79頁)

というさおり先生の言葉。誰もがいつこんな風になってもおかしくないと思えるような心が病んだ人たちが登場する。それを優しくあたたかい眼差しで寄り添う「椎木メンタルクリニック」の精神科医・旬とカウンセラー・さおり、そして「純喫茶・純」の店主純さん。

 

作短篇集となっている各章ごとに、ゴッホ、ピカソ、ウォーホルなどが描く絵画のタイトルが付けられている。『パイプを持つ少年』という短編に出てくる直也はものを片付けられないADHDであるが、こういう人は周辺にもたくさんいるように思う。一番身近に感じた。

 

くつもの喪失や別れがある。母が娘を思う気持ちや親子の絆のようなものが大きなテーマとなっているように思う。便利なもの、AIで溢れている時代だけれど、人の心をあたたかくするのは結局のところ人間同士なんだと思う。

 

「人生うまくいかないのが当たり前だと思うようにしたんです。そう思い始めたら、ちょっといいことがあったときはすごくうれしい。それをね、日記につけてるんです」(210頁)

先日五木寛之さんがニュース番組に出ていて「辛いこと悲しいことがあるからこそ、喜びを感じられる」という話をされていた。それと同じようなことで、人生うまくいかないことがあるからこそ良いことがあったときにそれに気付けるというか、幸せを噛み締められるんじゃないか。だから喜怒哀楽って全て必要なんだと思う。

 

をたくさん読めば読むほどこういうあったかい作品から遠のいてしまう気がする。込み入った物語や悲劇にのめり込みやすい。私もそうだ。しかし、真っすぐに良い小説というのもなくてはならない。悪人が出てこない(出てきても途中から良い人になる)ハッピーエンドな物語。例えば藤岡陽子さんや瀬尾まいこさんが書く作品のような。

 

むつもりはなかったのだけれど、文庫本が発売されたときにXで白石一文さんがこの作品を推していたから買ってしまった。たまにはこういうほっこりする作品は必要だ。なにやら角川文庫の新しいレーベルらしく、その名も「ほっとひといき文庫」というらしい。心が疲れてしまいほっこりを求めているときに選んでみよう。

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『レイトン・コートの謎』アントニイ・バークリー|どんな些細な情報も読者にきちんと示す

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『レイトン・コートの謎』アントニイ・バークリー 巴妙子/訳

東京創元社[創元推理文庫] 2026.03.05読了

 

ょっと考えればわかるのに、読み始めるまでなぜか人が着るコートだと勘違いしていた。おもてなしが好きな実業家スタンワースが今回ホームパーティに選んだのが「レイトン・コート(邸宅)」である。密室で死体が発見されたとか、もう王道すぎるなぁとか思ったけれど、夢中になってしまった。

 

ームズ役のロジャーとワトソン役のアレックの応酬が小気味よい。というか、この2人喋り過ぎなんじゃないか!?ずっと喋ってるのが、さながらコントのようでもありかなり笑けた。なんだろう、この言い回しとか文体がはまるのかなぁ。バークリーは当時の探偵物を批判しているとかで、全体として探偵小説論!なんだよな〜。

 

ういう結末は今であれば驚きはしないのだけれど、当時はおそらく目が点になったろう。しかもバークリーは処女作でこれをやってのけたというのがまた驚きだ。というかなかなか度胸があるというか。これを出版した一年後に、イギリスで一番有名な女性推理小説家の例の作品論争が巻き起こったそうだ。

 

説で法月倫太郎氏がバークリー作品を「愉快な英国探偵小説」と表現してるのは頷ける。フェアプレイ精神を忘れずに、どんな些細な情報も読者に示すということが読み手への敬意に繋がる。こういうのがバークリー作品に惹かれる所以かもしれない。

 

日読んだ『毒入りチョコレート事件』のロジャー・シェリンガムのシリーズのひとつで、実はこちらがシリーズ一作目である。何も知らずに『毒入り~』を読んだのだが、思いの外おもしろくて、他も読んでみようと手にした。それにしてもロジャーがこんなに喋るキャラクターだったとはな。『毒入り~』ではそんなに目立たなかったのにね。

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『人間失格』太宰治|ダメ人間であればあるほど共感し羨望を覚える

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『人間失格』太宰治

筑摩書房[ちくま文庫] 2026.03.03読了

 

「恥の多い生涯を送ってきました」という、あまりにも有名な文章で始まるこの作品を読むのは何回目だろう。青空文庫でも読めるけれども、紙の本が好きなこともあるし、筑摩書房から刊行されたこの文庫本の佇まいに心惹かれた。表紙をめくると、初版単行本の表紙と直筆原稿のカラー口絵が付いている。そもそも太宰治作品は筑摩書房から生まれたのか。太宰治文学賞は筑摩だったな。

 

庭葉蔵という人物の手記により、自分がどのように生きてきて、なにをもって人間失格だというのかが語られる。ひたすらダメ人間であることを追い求める。訥々と語る堕落した自己。しかしダメであればあるほど、私たち読み手は共感し、またなんらかの羨望すら覚えてしまうような気がする。自分にも葉蔵と似たようなところがある。そして読んだ誰しもが自分の生きる意味を考える。

 

蔵の元にはなんだかんだと世話をやいてくれる人がいる。人たらしであることに疑いはなく、自伝的作品といわれることからも、実際の太宰さんも相当な人たらしだったのだろう。

 

末にある近代文学研究者の安藤宏さんによる「作家案内」と多和田葉子さんの「解説」がわかりやすく理解が深まった。多和田さんは『人間失格』をカフカの『変身』になぞらえていて、さすがの着眼点だなと思った。どちらが好みかと問われたら三島由紀夫さんのほうが好きだが、太宰作品もふとしたときに読みたくなる。彼の文体から立ち昇る優雅な絶望を感じたい、それに偉大なる日本文学であることは言わずもがなである。昨年の秋、青森の奥入瀬地方を旅して、すっかり青森の虜になってしまった。次は津軽を訪れて「斜陽館」に行ってみたい。

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『松岡まどか、起業します』安野貴博|何より大切なのはスピード感

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『松岡まどか、起業します』安野貴博

早川書房[ハヤカワ文庫] 2026.03.02読了

 

ームみらい党首・安野貴博さんが小説を書いているなんて知らなかった。この本は彼の2冊目の小説である。1冊目の『サーキット・スイッチャー』でハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞したとのことで、いやはや、本格的な小説家じゃないか。

 

京都知事選に立候補したときから気になっていた。最初は髪の長さとか容姿に目がいっていた(良い意味で)が、徐々に彼の話すことに聞き耳を立てている自分に気付く。安野さんがあるテレビ番組で「現代の日本はAI産業で20年くらい遅れている」と発言しているのを見て「まさかそんなに」と驚いた。彼の感覚とはもちろん異なるだろうが相当な遅れをとっているのは事実だろう。

 

手企業に就職が決まりインターンとして働いていた松岡まどかは、突如内定辞退をするよう言い渡される。もちろん納得はできないが、まどかは自分で会社を作る決意をする。自分を入社させなかったことを後悔させてやる、と意気込む。

 

AIやスタートアップもいまいちよくわからず、専門用語が飛び交うストーリーについていけるか不安だったが、誰にでも易しく読みやすく書かれている。何よりもテンポが良くてあっという間に読み終えた。

 

ちろん簡単にうまくいくわけはなくて紆余曲折が待っている。YouTubeやツイッター(現X)も最初から成功しておらず、実在する企業のことも書かれてあったから、現実感がある。きっと名だたる企業も本当にこうやって奮闘してきたのだろう。

 

業家とは孤独なもの。経営者は従業員から嫌われる覚悟を持たなくてはならないことは、自分で会社を興している知人からよく聞く。本当にそうなのだろう。苦しいけれどその覚悟がない人には到底社長にはなれないのだと思う。この作品を読んで、スタートアップに何より大切なのは「スピード感」だと感じた。何をするにも決断が早い。

 

ちろん小説家・安野貴博と実業家・安野貴博、政治家・安野貴博は違うだろうが、彼の頭の中はどんな風なのか、何が渦巻いているのかは垣間見ることが出来たと思う。普段なら滅多に読まないジャンルだけど読んでよかった。こういう人がこれからの日本を引っ張っていくと思うので、安野さんにデジタル大臣になってほしいかもな~と思う。

『大鴉の啼く冬』アン・クリーヴス|身体も心も凍りつく

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『大鴉の啼く冬』アン・クリーヴス 玉木亨/訳

東京創元社[創元推理文庫] 2026.03.01読了

 

ギリス最北のシェトランド島が舞台になっている。そもそもこれを読むまでシェトランド島の存在を知らなかった。島に住んでいるのはわずか2万2千人あまり、島民には知り合いが多く閉ざされた社会である。これが陸にある村単位ならまだわかるけれど、この島は対岸の島からもフェリーで14時間かかるというのだ。

 

髪の美しい高校生・キャサリンが絞殺された姿で見つかった。最後に会った孤独な老人マグナスが容疑者とみなされる。知的障害のある彼が疑われるのには、8年前に起きたある事件(未解決)で容疑者とされているからだった。

 

のマグナスと、殺されたキャサリンの友人であるサリー、画家でシングルマザーのフラン・ハンター、そしてシェトランド暑の警部ジミー・ペレスの4人の登場人物の視点で語られる群像劇となっている。

 

み終えて、いたたまれない思いが膨らむ。誰も幸せにならない、こんなにも辛くもどかしい最後はあるだろうかと苦しくなる。静まり返った極寒のシェトランド島に自身も凍り付き取り残された気分になる。身体も心も。この作品は「シェトランド四重奏」としてシリーズ化されており、あと3作続くようだ。

 

々それなりに読んではいたけど、海外ミステリーのおもしろさに最近ドはまりしている。アントニイ・バークリーやC・J・ボックスがおもしろかったからかな。一時期P・D・ジェイムズを読み耽っていたのを思い出す。特にシリーズものを読みたい欲が湧いていて、まだ読んだことのない作家の本を調べている。

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『恋の幽霊』町屋良平|誰かを好き、大事にしたいと思ったらそれがもう恋

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『恋の幽霊』町屋良平

朝日新聞出版[朝日文庫] 2025.02.26読了

 

屋良平さんの小説にしてはずいぶんポップだ。文体は『生活』のようなポップさはあるけれど。「幽霊」とあるが怪奇的な雰囲気は全くなくて、そもそも「恋の」という修飾語がついている時点でポップだ。でも、これがなかなかに深い作品だった。

 

校生の時に出逢った4人の男女、シキ、土(つち)、京(きょう)、青澄(あすみ)は恋をする。カップルが2組いるわけではなくて、4人がみんなに、つまり自分以外の3人のことを等しく好きになる。グループの全員がみんなのことを100%好きになるという、ちょっと変わったストーリーである。高校卒業から15年後を起点として話が進むが、過去の回想がメインとなっている。あのときこう思っていた、こうだったら良かったのに、今ならわかる、というようなちょっぴり懐かしい気持ちになる。

 

だれかに恋をして、こんな気持ちに気づかなければよかったと、そう思ってしまうことこそが恋だ(247頁)

 

思議な小説だったなぁ。こんな関係が果たしてあるのだろうかと訝しく思っていたが、あるのかも。というかないとは言えないよな。私たちは普通とされている恋愛を想像してしまう。小説や映画では当たり前のように男女のラブストーリーがある(今でこそジェンダーレスな恋愛も多くなっているけれど)。恋ってこういうものだと定義があるわけではないんだから、「誰かを好きだ」「大事にしたい」「好きかも」と思ったら、もうそれが恋なんだよね。その延長で、もっと深いところに進むと愛になるんかな。

 

分の想いが取りとめもなくダダ洩れになっているような文章が延々と続き、こういうものが町屋さんの手にかかるとちゃんとした文学になっているのがやっぱりすごい。

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『沈黙の森』C・J・ボックス|猟区管理官が駆け巡り、謎を解くシリーズのはじまり

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『沈黙の森』C・J・ボックス 野口百合子/訳

東京創元社[創元推理文庫] 2026.02.24読了

 

者のC・J・ボックスが、2015年に書いた序文が最初に収められている。シリーズ最初の作品である『沈黙の森』がどのようにして生まれたか、読者からどれほど愛されているか、また彼がどのように小説と向き合っているのかがわかる。生まれ育った愛するワイオミング州を舞台にして、ジョー・ピケットの物語はここから始まる。

 

イオミング州は自然豊かなところで、広さはアメリカ50州のうち10番目に広いが、人口は一番少ないという。それだけでいかにこの地には手つかずの自然が多く広大なのかがわかる。ワイオミングというのは「おおきな原っぱ」という意味らしい。大きく深呼吸をしたくなる。

 

区管理官という仕事は日本ではあまり知られていない。自然保護と環境保全に貢献するエキサイティングな仕事。ライオンを狩り、動物を保護し、負傷したキャンパーを補助する。野外で生活する、つまり自然を相手に生きる。警察でも保安官でも探偵でもない「猟区管理官」という職に就く人物が主人公ということで、新鮮だ。ジョーが住む家の敷地内で死体が発見されるところから事件が始まる。

 

に期待していなかったこともあるのか、かなりおもしろかった。猟区管理官という任務でどれだけ物語が続けられるのかと思うけれど、シリーズはもう20作にもなるみたい(すご!)。事件そのものがサスペンス要素満載でおもしろいのだが、何よりもジョーのキャラクターがものすごく良い。何かと不器用で射撃が苦手(つまり人間らしく弱点がある)なのだが、仕事と家庭を大切にする真っ直ぐで熱い男。愛する妻と2人の娘の存在が物語に深みを増す。特に7歳の長女・勇敢なシェリダンは、この先ジョーの相棒になるんだろうなという期待感が湧く。

 

険サスペンスの王道といえばその通りなんだけれど、それが安心感あるというか結局のところそういうのをみんな一番欲してるんじゃないかなぁと思う。

 

の『沈黙の森』が〈猟区管理官ジョー・ピケット〉シリーズ第一作ということだが、このシリーズは元々講談社文庫で刊行されていたものが途中から創元推理文庫に変わったらしい。創元さんでこのタイトルデカめな表紙を何冊か見たことある。講談社文庫の初期作品は手に入れるのが困難なようで、電子版を読むか図書館か古書店で探すしかないみたい。でも第一作を復刊したということは、創元さんで今後二作目以降を復刊させてくれるんじゃないかと期待してしまう。一話完結になっているからどの順番で読んでも問題はないようだが、シェリダンの成長は時系列に追いたい気もするのだ。

『ももこの世界あっちこっちめぐり』さくらももこ|旅先でもほっこりとしたもののあわれ

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『ももこの世界あっちこっちめぐり』さくらももこ

集英社[集英社文庫] 2026.02.22読了

 

ッセイを読むのは今年初かも。なんとずっと小説ばかり読み耽っていたのだ。いかんいかん。この本は、女性誌「non-no」の企画で1996年の5月から10月の間さくらももこさんが外国に旅をすることになり、ももこさんと旦那さん(時たまお父様も)が訪れた世界のあちこちの記録がおもしろエピソードと共に綴られたエッセイである。

 

15年以上前に会社の研修旅行でスペインに行ったことがあるが、その時に見たガウディの建物は一生忘れられない。建築途中のサグラダファミリアやグエル公園はもちろん、街のあちこちにガウディの作品が溢れていた。とはいえなかには摸倣されたものも多かったかもしれない。ももこさんがガウディの作品を一目で好きになったのもわかる、わかる。

 

もこさんがフランス・パリに行くきっかけになったのは「ピエール・ラニエ」の腕時計だそう。石や貝を素材にして動物や楽器が絵のモチーフになった限定版のシリーズで、日本では手に入らないものを集めようと行ったらしい。ググったら確かにかわいかった。

 

ワイに行って海水浴をしたときに「ただ水の中に入っているだけの状態だ」と感じたシーンのを読んで、まる子の「ガーン」が思い浮かんだ。そしてハワイ自体(オアフ島が、かな)を趣を感じられないと表しているのはなんとなくわかる気がする。気候も良くてのんびり出来て良いところなんだけどね。

 

人的にはヴェネツィアでヴェネチアンガラスを探すところ、アメリカのヨセミテ公園、ラスベガスの商店街の電飾ショーが気になった!日本国内だけでも行きたいところがたくさんあるのに、外国を含めたらとてもじゃないがお金も暇も何もかもが足りない。旅行先も厳選しないとなぁ。

 

もこさんの本は『もものかんづめ』を筆頭にしてエッセイが爆売れであるのは知っていたが、読んだのは初めてである。もちろん『りぼん』世代であるので、漫画もだしテレビで『ちびまる子ちゃん』を観ていた世代である。最初はあんまり上手くない絵だなと思っていたのに、じわじわと効いてきてかわいく思えてきて(ちいかわと同じような感じかしら)、それはやはりまる子の思考と落ちがめちゃくちゃに共感でき、普通の女の子が感じることをそのままの目線でおもしろおかしく表しているからだろう。

 

もこさんは漫画家になる夢を持っていたのはもちろんだが、最終的にはエッセイストになりたいと思っていたらしい。二つの夢を叶えてなんと素晴らしいことだろうか。たぶん小説も書けたんだろうなと思う。易しい語り口で読みやすい文章、そしてユーモア混じりで読み手を飽きさせない。

 

っとイラストがあるのかなと思っていたら、地図とほんのわずかだけでほぼほぼ文章だけだった。日常でほろっと感じる「もののあわれ」みたいなことを抜群のギャグセンスと優しさで記している。つまり『ちびまる子ちゃん』のまる子そのものなのである。ほのぼのするなぁ。またしばらくしたら彼女の他のエッセイ読もうっと。

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『ユドルフォ城の怪奇』アン・ラドクリフ|英国ゴシック小説を味わい尽くす

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『ユドルフォ城の怪奇』上下 アン・ラドクリフ 三馬志伸/訳 ★★

作品社 2026.02.21読了

 

う、このジャケットを見ただけでそわそわドキドキが止まらない。18世紀イギリスで大ベストセラーになったアン・ラドクリフ著のゴシック小説の大傑作である。読み終えるのに時間はかかったが、物語として本当におもしろかった!恐怖心を味わいながらも、雄大で美しい自然描写と登場人物たちの心の機微がふんだんに書かれていて壮大な物語世界にどっぷりと浸かった。ジェイン・オースティン著『ノーサンガー・アビー』の登場人物が(もはやイギリス中の人々が)夢中になったのもよくわかる。

 

ントベール夫妻の深い愛情に包まれ、大自然の中で育てられたエミリー。両親は病に侵されほどなく亡くなってしまい、唯一の肉親である叔母の元へ行くことになる。叔母の夫となったモントーニによりイタリアの山奥にあるユドルフォ城に幽閉されてしまう。ここで何が待ち受けているのか、そしてエミリーの恋の行方は。

 

盤、エミリーと父親が雄大な自然を散策しながら旅行するシーンがとても好きだ。エミリーは父親にこのように言う。

いくら貧しくとも、雄大なもの、美しいものに対する感性が鈍ることはありませんし、そうしたものを見て感激に浸るという機会が奪われることもありません。それというのも、自然の景観というものは、人工的な贅沢品など及びもつかないあの崇高なる景観というものは、決してお金持ちの独占物などではなく、誰でも味わえるものなのですから。(上巻90頁)

私も歳を重ねるにつれて自然の景観が一番美しいと強く感じるようになっている。どんなに煌びやかに作り上げられたものよりも。

 

巻293頁になってようやく「ユドルフォ城」という単語が出てくる。実際にお城に足を踏み入れるのは上巻の3分の2を過ぎてから。城にたどり着いた時のおどろおどろしい描写は読むものをすくみあがらせ、これから起こるであろう不穏さをほのめかす。ブラム・ストーカー著『ドラキュラ』を読んだ時の心持ちになった。日本だとこういう城がないからイメージできないけれど、ノイシュバンシュタイン城のような真っ白なお城ではないだろうしハリーポッターの城とも違うのかな…おそらく周りの森とか漂う空気感とかも含めて不気味な空気が漂ってるんだろう。こういうのを想像するのも楽しい。

 

ミリーらが幽閉されてからは物理的な怖さと心理的な怖さの両方が相まっていく。何度も誰かの気配を感じたり、見知らぬところから声が聞こえてきたり、人が突然いなくなったり、、こんな屋敷でよくもまぁ眠れるものよ…。

 

ネットという侍女の存在が作品を引き立てているのは間違いない。お喋りで迷信にかぶれやすくて、ちょっと信用ならないところもあるけど優しく憎めない存在。時々「南無三!」と叫ぶのが(というか南無三という表現が)おかしみをもたらす。後半、ユドルフォ城とはまた別の城(この城もかなり重要)が登場するのだが、そこにいる老家政婦ドロシーもまた味がある。やっぱりメイドは物語にとっておきの役割をもたらす。

 

中に詩が多く出てきたのは想定外だった。エミリーが実際に歌っているものもあれば、過去の著名な作家等の引用もある。私に詩を読み解く、味わう力がないのが悔やまれる…。全体を通して、ゴシック小説ならではの古城や廃墟、僧院から漂う恐怖感を楽しみつつも、さながらオースティン作品のような恋愛模様、ジョージ・エリオット作品のような思慮深さが垣間見られ、まさしく英国文学の傑作の一つだと思う。

 

読本は誰しもたくさんあると思うが、その中でもどうしても気がかりな(引っかかっている)作品が私には数冊ある。『失われた時を求めて』を筆頭にして、これもその一つだった。新刊で出たときすぐに買ったのに、もう5年も放置されていたなんて。何より驚いたのが書籍の値段で、どっしりとした佇まいのこの本が1冊3,600円なんて今では考えられない。でも作品社は元々安価気味なんよね。神保町ブックフェスティバルでも太っ腹で、新品同様の本が半額だったし。でも作品社さん、最近出店してなくて悲しい。

 

れにしてもこんなにおもしろい小説が長らく翻訳されていなかったなんて、英語圏の作品なのになんとも不思議である(これこそ怪奇)。作品社はラドクリフの『森のロマンス』という小説も刊行しているのでそれも読もうかな。それから、ゴシック小説の元祖とされているウォルポール著『オトランド城奇譚』も読んでみたい。

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