
『暗黒の瞬間』エリーザ・ホーフェン 浅井晶子/訳 ★
東京創元社 2026.03.09読了
斬新な角度から書かれたミステリーである。単なる法廷ミステリーではない。人間の内面にある解決不可能なものを浮かび上がらせ、読者を驚愕させ溺れさせる。何が正しいとか間違っているとかではない。法と正義とは、罪と罰とは何なのか。
ものすごくおもしろくて夢中になって読んだ。物語として優れているのはもちろんだが、私としては何より構成がカッコいいと感じた。久しぶりにミステリー作品で★をつけることができた(★は、超個人的良かった・感動した・好きのマーク)。
ベルリンに住むエーファは、長年携わった弁護士の仕事を退く決断をする。今までに携わったいくつもの事件のなかから特に重要な事件を回想するという形での連作短編集になっている。全ての短編が極上キレキレで、どれひとつとして未熟な作品はなかった。特に印象深かったのは『生かしておく』『塩』『強姦』である。真実を追い求めるのではなく、法の裁きを与えるために被害者らが改ざんのようなことを図ったり、弁護士が被害者に手を貸したり…。
弁護士の使命は、罰を避けること、依頼人が刑務所に行かずに済むようにすることではない。罪を犯した者の心の重荷を罰が取り除くことがあるのをエーファが理解したとき、物語の形相だけでなく自分の中での罪と罰への向き合い方ががらっと変わるようで鳥肌が立った。本当の意味での優秀な弁護士とは何だろうと考えさせられた。
エーファの視点で語られることがほとんどなのだが、時に被害者、または加害者の目線でも語られる。どんな犯罪者でも、99%は普通に過ごしている。ほんの小さな決断、ほんの一瞬の出来事、つまり「暗黒の瞬間」がその人の人生を狂わせかねない一瞬となる。それを許せるか許せないか、法的に赦されたからといって心はどうなのか、なんてことをつらつらと堂々巡りになりながらも考えさせられる。
章の終わりに所々名前が出るシュテファン・ハインリヒって何者だ!と気になって仕方ない。目次には最後の章にその名前が付けられているから、最終的にこの事件のことが明らかになるんだろう。エーファの過去に何があったのか、何故ここまで彼女は依頼者に深入りするのか、この謎が否が応でも頁をめくる手を止めない。
シーラッハと比較されているみたいだけど、私はシーラッハよりも断然おもしろいと思う!著者のホーフェンは現役の法学者でザクセン州憲法裁判所の裁判官も務めているという。だからこんなにもリアリティがあるんだ。ヒリヒリするサスペンス、知的興奮を味わいたい人におすすめだ。








