パクチョンヒ大統領が殺害されたことを受けて、軍内グループのハナ会が捜査にかこつけて活動をはじめる。一方、軍の権力を減らそうと考えていたチョンサンホはイテシンに首都警察をまかせた。そしてハナ会をひきいるチョンドゥグァンがクーデターを画策して、敵対勢力を分断したその時、いきなりチョンサンホに呼び出されるが……
粛軍クーデターをモデルとした、2023年の韓国映画。韓国は『アシュラ』*1のキムソンスで、共同脚本もつとめている。
韓国現地でもそうだったように、2024年におこなわれた戒厳令と、それに抵抗した人々の勝利をかさねあわせるように視聴した。
よく見ると似ているところは少ないかもしれない。しかしパクチョンヒの殺害者の動機が不明瞭で、占い師の託宣によるものなのかと冗談半分で問われる場面には、2024年の戒厳令が本当に占い師の影響下にあった可能性があることを連想して、むしろ映画の滑稽な描写より現代の現実が滑稽だった事実に奇妙な感覚をおぼえた。
「大統領は今年が強運だ」 占い師が戒厳令日程に関与の可能性 韓国 | 毎日新聞
それゆえ、歴史のくりかえしは一度目は悲劇だが二度目は喜劇という言葉を、本来の語義とは違った意味で思い出した。独裁者の愚行が悲劇ではなく喜劇になるよう韓国では市民が押しとどめたのだ。
市民が「人間の鎖」、兵士ともみ合いも 戒厳令で緊迫の韓国国会前 | 毎日新聞
もちろん映画は冒頭のテロップで説明されているようにあくまでフィクションであり、現実と何もかも同じではないだろう。
そこで純粋に内戦映画として見ると、どの要人とどの拠点をどちらの陣営が確保できるのかという目標が明確で、さまざまな策略が同時進行する内戦なのに全体像がつかみやすい良さがあった。ソウルの地形にはくわしくないので位置関係は明確にはわからないところもあったが、そのまま移動すればどちらの陣営が先につくのかという時間の説明はされるので、なぜ急いでいるのか、なぜ妨害しようとするのかといった動機は理解できるし、どちらが優勢なのかも感覚的につかめる。
ソウルの地図も何度か提示されるが、VFXで再現された全景を映すカットもいくつかあり、特に橋を部隊が移動する攻防は夜景のスケール感もあって見ごたえがあった。その橋での市民の生活が意図せずクーデターの障害になった構図も良いし、最後に市民を人質のように利用して逆転するドゥグァン*2も悪辣な敵として印象深い。
物語の前提となる大統領殺害の事後処理からクーデターの終結まで濃密に駆け引きがつづいて、2時間半近くの尺を最後まで無駄なく使いきっている。
一部の個人ドラマの挿入は演出過剰と思うところはあったが、韓国映画らしい過剰さがあることで、記号をとってつけたようなハリウッド映画と比べて映画に味わい深さを生んでいる。
クーデターを止められなかったとして歴史的な評価が低い臨時大統領を、クーデターを遅らせるほどに手続きを守りつづける生真面目なキャラクターにしたことも、物語の温度を下げるアクセントになっていて良かった。
歴史を題材とした娯楽作品としても素直に傑作。