女神の加護もあって見事な治世をおこなった英雄王だが、老衰の瞬間に今度は武を極めるという自分の夢だけに邁進する人生を送ってみたいと女神にたのむ。そして銀髪の少女として前世の記憶をもって転生した英雄王は、技術が衰退して飛行する土地から技術をさげわたされる社会にとまどいながらも、強敵との戦いを何よりも優先していくが……
小説家になろうへの投稿作がHJ文庫で商業化され、2023年にスタジオコメット制作でTVアニメ化。同年は男性が美少女へ性転換する、いわゆるTSFと呼ばれるジャンルのTVアニメ化が不思議と目立った。
最初のモンスターとの戦いで子供たちを守ろうとドレス姿の母親がそこそこ剣技で活躍するサプライズから、主人公の他も少女騎士ばかり映したOPまでで、どちらかといえばTSよりもガールズアクションアニメを目指した作品とわかる。
TSはED映像などの百合っぽい描写の背景設定的なニュアンスもあるだろうかと思ったが、とりあえずTVアニメ化された範囲では主人公自身は色恋に興味がないまま終わった。とはいえ主人公が自身の姿の美しさを楽しむ描写もけっこう多く、TS転生で省略されがちな魅力をちゃんと活用している。
第1話はおそらくスタジオコメットおかかえの野本正幸の線のニュアンスの拾い方が良い。必ずしも線が多いわけではないし描線は太めだが、全体を通して情報量や作画修正が期待より少しずつ上回っていて満足感がある。斜め俯瞰の顔などが破綻せず作画できている。きちんと布地や革製品の厚みの違いを細かく作画しているので服飾に実在感がある。ここまで細かいニュアンスをとりこぼしていないことから、作監や原画だけでなく動画以降の作業工程もしっかりしていることがうかがえる。モンスターとの戦いでも主人公の強さの基準役となったいずれ聖騎士や領主になる少年が、ここでもうまく敵の狡猾さと限界をアクションを通して表現できているし、狡猾な敵も魔術だけではない技量も最低限あることを物語でも作画でも説得的に表現できていた。
第2話は演出ノンクレジットで海外作監と原画が多めで、いきなり線が荒くなったが監督コンテのおかげかレイアウトは悪くない。第1話の狡猾な青年が予想外に狡猾かつ邪悪になって再登場したり、レオンという男がバランスが良く視野が広い聖騎士かと思えば意外な行為*1をして次回に引いたり、いろいろな思惑がからみあう。そこに戦闘狂の主人公が強敵と戦うため意図的に危険を引きうけて、作品コンセプトのおかげで話の筋がとおって見やすい。それでいてパーティーなどで少女の視点を知って過去を反省する主人公など、意外に真面目にTSFをやってるのも良い。
第3話と第4話も、支配民族による領主ながら優しい穏健派と思わせて邪悪という悪くないがありきたりな展開になるかと思えば、帝国主義の尖兵として自分なりに妥協していることも罪悪感に苦しんでいることも描かれる。対する反抗組織も、民衆の被害を軽視しているわけでもなく、必要に応じて共闘もする。穏やかに見えた人物の真意は前ふりがあってもけっこう驚いたし、その末路も予想外だった。第2話で登場したアイテムの再利用から怪獣映画的な構図が味わえるモンスター戦になったことも嬉しい驚き。
しかし急に第5話でチート能力者によるテスト無双展開になり、驚きも味わいも消え去った。一応は第2話で反抗組織に身を投じた人物の妹が周囲から見くだされる連続性もあるが、群像劇として楽しむには弱く、主人公のまわりがチートで引っぱられるだけの人形化していく。同じ試練をチートでくりかえし突破する茶番が長すぎる。主人公ほどではないが試練に抵抗する人物が何人かいたが、その動きをしっかりアニメーションをつけて魅力的に描けば、もう少し群像劇らしい味わいが出たと思う。
第6話は異能学園ものとして、突出した主人公に追随するキャラクターの温度差でふたたび群像劇の味わいが出ている。過去を思い出させるパターンの試練で、無理やりチートで横紙破り*2した主人公から、他者の過去の葛藤を知るドラマにつなげたのはうまかった。しかし全体的に作画が弱く、多用されるデフォルメ作画もコミカルというより手抜きの印象が強い。
第7話以降はこれまで描いてきた要素を受けた連続ストーリー。クローズアップの作画修正はなされているが、デフォルメ作画で気が抜けていくところは同じ。しかし支配者の末端に屈従する王が、支配者の目的が別にあったと知って末端と対立的に動いたり、技術的に限られた空戦能力のため複数陣営の衝突でありながら戦闘に参加する人数が適度にしぼられたり、けっこう要素の整理がうまい。反抗組織の長が仮面で顔を隠したままだったり、視聴者に明かしていない情報は多いが、とりあえずストーリーは一段落しているので独立した作品としてのまとまりはある。